魚が獲れない時代に「鹿児島・垂水」から学べる事 日本一のカンパチは漁業者たちの姿勢が作った

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垂水市漁協のカンパチ輸出量は、令和1年60トン、令和2年30トン、令和3年にはコロナ禍で一時的に落ちたが、令和4年は回復して100トンになる見込み。じわじわと売り先を伸ばしている。全国の2割を占める生産量と周年出荷ができる体制が、輸出をするうえで大きな強みとなっている。

ただし、これからさらに輸出量を伸ばしていくためには改革が必要になってくるだろう。農林水産省は水産物の輸出を2025年までに5568億円、2030年までに1兆2303億円に伸ばすことを目標に掲げている(2021年度実績は3016億円)。海外市場ではASC認証の取得や餌の完全EP化(EPとは魚に与える固形飼料のこと)が求められている。それらに対応していくには、国を挙げての支援が必要になってくるだろう。 

和美水産の生簀作業の様子(写真:著者撮影)

これからの水産業はマニュアル化が不可欠

一方で、漁業従事者人口の減少などの担い手問題もある。これからの水産業は、データ活用やノウハウのマニュアル化が不可欠な要素であると篠原さんは話す。

「僕自身、データのないままほふく前進で始めてきました。これからは、見て覚えなさいとか、勘を見習うとか、そういう時代ではないと思います。もし誰か後継者がいる、後継者になってほしい人がいるなら、ノウハウをマニュアル化していくことが必要だと思います。今企業が養殖に参入してきているのは、マニュアルが整っていることが大きいと思います」

テクノロジーの進化で、今まで経験や勘に基づいて判断していたことが、データで可視化されている。例えば垂水市漁協で導入されている「ウミミル」は、ICTブイ(自動計測&送信機能付き海洋ブイ)から送信される水温、塩分濃度等の海洋情報を閲覧できるアプリだ。

「養殖魚は人間が生簀を作って住まわせていて、本来はそこに住みたい魚たちではないわけなので当然ストレスがあります。水温や降水量、溶存酸素量、塩分濃度、それらのバランスが数値で見られることで、こういうストレスがかかるからこの感染症が発生するんだっていう原因と結果がわかりやすくなりました」

しかし、テクノロジーの進化でできることやわかることは増えても、自然環境に左右されるところは変わらない。鹿児島という土地である以上、台風の被害から免れることはできない。

「ただし、昔と比べて今は気象庁や米軍のデータなどさまざまな情報にアクセスできるようになりました。台風被害のあった1989年は、台風の進路予想もできていなくて、FAXで送られてくる進路図を見ながら、みんな一喜一憂していたのだと思います」

進路情報が入ったら生簀は避難港に移動させたり、沈下式のものは沈めたりと対策を打てる。もちろんそれでも被害はあるが、対策によって多少なりとも被害を減らすことはできる。 

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