巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか

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橋爪:そのための一番手近な問題として台湾がある。台湾を解放できなければ、中国にはそういう能力がないということになるから、中国は世界を仕切るもう一つのオプションになることができない。しかし、台湾を中国の思うように解決すれば、もはや中国はローカルな政権ではなくて、グローバルな覇権国だということが明らかになる。こういう話だと思う。

ただ、イギリスがアメリカになったように、アメリカが中国になるかというと、全然系統が違うので、そのリスクは甚だしく大きいと思う。このことは簡単に証明できる。中華人民共和国憲法を見てみると、中国共産党の条項がない。

大澤:ポイントはそこですね。

人類の運命を一人の人間に預けていいのか

橋爪:前文に、中国共産党が頑張ったから、中華人民共和国ができたのでよかったというようなことが書いてあるんだけど、第1条から最後のほうまで読んでも、中国共産党の規定がないんですよ。普通の立憲君主制であれば、存在すべき団体はすべて憲法に書いていなければならない。アメリカ合衆国憲法だったら、大統領が存在し、議会が存在し、最高裁判所が存在し、ときちんと規定がある。

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ところが、中華人民共和国憲法に中国共産党が書かれてないということは、中国共産党は国家機関じゃないということだ。中華人民共和国憲法によってコントロールされないということだ。

中国共産党は任意団体であって、超憲法的な存在として中華人民共和国を指導して、支配しているということなんです。これはもう世界中の憲法とまるで違う。似ているのはソ連の憲法くらい。ソ連の憲法は、ソ連共産党が超法規的に、ソビエト社会主義連邦共和国を支配していたので、それを真似したものが残っているんですね。

こんなものが世界標準になって、世界中を支配していいのか。憲法が中国共産党をコントロールしないとすれば、中国共産党は自分で自分をコントロールするしかない。しかし、中国共産党はそうではなく、中央委員会、政治局常務委員会、チャイナセブンといったものがコントロールしていて、そのトップの総書記が実権をすべて握っているわけです。これはもう完全な権威主義で独裁じゃないですか。

これは伝統的に中国のやり方ではあるが、人類の運命を一人の人間に預けてしまっていいのか。これを世界のやり方として認めていいのかどうか。まずそういう問題があることを深刻に認識したうえで、台湾の問題を考えなきゃいけないと思いますよ。

大澤:なるほど。説得力ありますね。巨大中国を取り仕切っている共産党が憲法の条項にも載っていない、ただの任意団体であるということは、『おどろきのウクライナ』でも言及しましたね。しかし、いまやそのトップがただならぬ権力を握っていて、世界に影響を及ぼそうとしている。おっしゃるとおり、これはもう人類の未来の問題といっていい。我々自由主義陣営がどう押し返すか、今が正念場だと僕も思います。

(構成・文=宮内千和子)

橋爪 大三郎 社会学者、大学院大学至善館特命教授

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はしづめ・だいさぶろう / Daizaburo Hashizume

1948年神奈川県生まれ。大学院大学至善館特命教授。『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『皇国日本とアメリカ大権』(筑摩選書)、『中国VSアメリカ』(河出新書)など著書多数。共著に『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書、新書大賞2012を受賞)、『おどろきの中国』(講談社現代新書)、『一神教と戦争』(集英社新書)など。

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大澤 真幸 社会学者

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おおさわ まさち / Masachi Osawa

1958年、長野県生まれ。社会学博士。千葉大学助教授、京都大学教授を歴任。2007年『ナショナリズムの由来』(講談社)で毎日出版文化賞、2015年『自由という牢獄』(岩波現代文庫)で河合隼雄学芸賞受賞。ほか『不可能性の時代』(岩波新書)、『三島由紀夫 ふたつの謎』(集英社新書)など多数。共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『げんきな日本論』(講談社現代新書)

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