巨大中国が「台湾侵攻」に踏み出す決定的理由 「ロシア暴走」の教訓は覇権国争いに生きるのか
橋爪:台湾が存在しているのであれば、西側世界は台湾を支持し続けると思うし、中国としては失敗だと思う。その意味で、台湾が存在しなくなるというのが、中国の戦略目標、戦争目的ですから、台湾が存在しなくなってしまえば、どうしようもない。
それを具体的に言うなら、中国が通常戦力で台湾に上陸して、台湾に新しい政府をつくるということです。それで、形も整うでしょう。そうなると、中国は一つだという中国に、外部から軍事介入する理由がなくなる。だから、これで終わりということになる。
その後どうなるかというと、「台湾を守ります」とかバイデンが言っていたのにそうならなかったわけだから、アメリカは約束を守る能力がなかったということになり、覇権国ではなくなる。そして、文字どおり、中国がアメリカに代わって世界の覇権国になり、まったく新しい時代が始まるということです。
大澤:なるほど、嫌な展開ですね。中国が覇権を持つと、周辺国はどうなりますか。
橋爪:ロシアとインドが中国に寄ってきて、東南アジアは中国圏になります。アフリカも中国になびき、ヨーロッパの貧しい国は中国にがんじがらめになる。さらに中央アジアが中国となって、ラテンアメリカも中国圏になり、残ったのはアメリカとヨーロッパ、そして日本だけという世界が待っているかもしれないという話です。
今まさに文明の衝突が起きている
大澤:それはまさに文明の衝突ということですかね、ビジョンとしては。
橋爪:うん、そう思う。イスラムも、ヨーロッパよりは中国のほうがいいと思うかもしれないな。新疆ウイグルでいじめられているけど、それなりに世話にもなっているし、イスラム教徒の扱いについては中国は慣れているからね。
大澤:『おどろきのウクライナ』でも話しましたが、いま起きているロシアとウクライナの戦争も、ある意味で文明の衝突なんですよね。
サミュエル・P・ハンチントンの『文明の衝突』(1996年)の話をするときに、もう一つ浮かぶのがフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(1992年)のビジョンです。歴史の終わりというのは、リベラルデモクラシーが勝利して、平和な世界が来るというイメージ。
一方、文明の衝突は、ある種のコンフリクトが地球に残っている状態を指しているわけだから、この2つは一見対立するビジョンに見えますけれど、実際には同じものの2つの側面を語っているともいえる。
つまり、文明の衝突があったとしても、プラクティカルに解決できる程度の文明の衝突であれば、ゆるやかでリベラルデモクラティックな多文化主義のようなものが地球レベルでできるということで、それなりに見通しは明るいという感じです。
ただ、その2つのビジョンが世に提示されて30年ぐらいの時間が経ってみると、文明の衝突ってそんなに生易しいものじゃないということがわかった。文明の衝突的なビジョンというのは、一番危険な場合はこうなるよというのを今回僕らは見せつけられているんだと思う。