たった1枚の"手書き書類"が組織を変える 東日本大震災が教えてくれた「教訓」

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宍戸 信哉(ししど しんや)
住宅金融支援機構理事長。1948 年宮城県塩竃市生まれ。1971 年に東北学院大学法学部卒業、住宅金融公庫入庫。1998 年情報システム部長、2000年企画部長、2001 年大阪支店長を経て、2003 年住宅金融公庫理事。2007 年株式会社住宅債権管理回収機構代表取締役社長。2011 年4月住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫設立以来初めての住宅金融公庫出身の理事長として就任。

遠藤:東日本大震災のときは、被災者への融資制度はあるものの、仕組みが複雑で、かつ被災状況も異なるので、制度が適用可能かどうかの判断も現場では難しかったようでね。

宍戸:ええ、「災害復興住宅融資」という制度です。でも、ご自宅をなくされた方に「住所」をどう書いてもらうかなど、いろいろ難しい点も多かったのです。

遠藤:それだと「お客様も被災されて困っているのに、いらだちが募る」という悪循環に陥りそうですね。融資用の対応マニュアルはなかったのですか?

宍戸:本店が作成した、分厚いマニュアルはあったのですが、経験や知識が豊富な人でないと使いこなせず、被災者の方から不満の声が大きくなっていたのです。そこでコールセンターは自分たちで「ミニ・プロジェクトチーム」を作ったのです。

遠藤:本店に指示を仰がず、現場で解決されたのですよね。たしか現場では、機転を利かせて対応している方もいて、そうしたアイデアを集めて精査したうえで、「借入申込書」自体に手書きしたものを、みなさんで共有したのですよね。

宍戸:ええ、約3カ月かけて、個々の職員のアイデアを反映させた、1枚の手書き「借入申込書」ができました。それが、現場で使えるマニュアルになったのです。

“手書き”のほうが、圧倒的に人に読まれる

遠藤:この1枚の手書きの申込書を見たとき、「これは現場の知恵が詰まった、生きたノウハウ集」だと感じました。コールセンターのみなさんも、その借入申込書を使って、災害融資の問い合わせにも自信を持って対応されているようですね。

被災者からの問い合わせに現場で対応するため、自主的に作られた手書きのマニュアル。現場のノウハウが凝縮している(写真提供:住宅金融支援機構)

宍戸:はい。その際、ポイント事項は、「パソコンの印字じゃなくて“手書き”の字でなきゃダメだ」と現場はこだわりました。

遠藤:そこは、意外に重要なポイントですね。現場力の高いところで行われている「見える化」は、“手書き”をとても重視しています。人の温もりを感じられるせいか、“手書き”のほうが圧倒的に人に読まれるのですね。

宍戸:私もそう思います。

遠藤:「その程度ならウチでもやってるよ」と思う人がいるかもしれませんが、これは、現場の暗黙知(経験や勘に基づく知識)が詰まった1枚のマニュアルとして、「見える化」している点に価値があります。

宍戸:現場での自律的な取り組みですしね。

遠藤:当事者として、「よりよくする」ことに取り組み、課題を自律的に解決する。それが「現場力」という、組織能力を磨き上げる第一歩です。

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