中学時代のいじめの問題もまだ引きずっていた。いじめている子に「やめなよ」と言えなかった自分。正義感とは? 罪悪感とは?
そんなことを日々考えていた。
そんなある日、センター試験に倫理という科目があることを知った。
「学校の授業には倫理ってなかったんです。本屋さんで倫理の参考書をパラッと開いてみたら、すごく面白くて。読んでるだけでもすごく楽しかった。今まで自分にとっては勉強って、むりやり暗記したり問題を解いたりする、苦しいものだったんですけど。はじめて勉強が楽しいと思えました」
一浪した後、倫理学がある北海道大学の哲学・文化学コースに進んだ。
「大学に進んでも相変わらずすごい暗かったですね。入学式も最初のクラス会も参加しないで、ずっと家に引きこもっちゃって、友達作るチャンスもなくしちゃいました。
自分の中に『これがやりたい』ってものがないことにも気づいて。
『私、なんでここにいるんだろ?』
みたいな気分になりました。毎日寂しい、だけど人とは関わりたくない。そんな矛盾を抱えて、暗い家で1人で泣いてました」
ただそんな状態でも、学校にはちゃんと通っていた。
完全に引きこもらないように、ルーティンも作っていた。深夜に、徒歩30分かかるレンタルビデオ店に映画を借りに行っていた。
「冬の北海道の雪の中をとぼとぼ一人で歩いて行くのが好きでした。
雪が降り積もってると、本当に静かなんです。シーンと静まりかえった中に広がる、雪の降り積もった街の景色がなんかすごい悲しかった。でもだからこそ素晴らしかった。つらい時に見る景色のほうが、心に残ってるんですよね。寂しいからこそ、こんなに美しいものが見られるんだな、って思って。あの景色は今でも宝物です」
出版社を志すように
もう1つのルーティンは、毎日札幌駅にある紀伊國屋書店に通うことだった。
書店内に併設されたカフェで、毎日片っ端から本を読んだ。
「毎日本を読んでいるうちに、出版社に行きたいと思うようになりました。ただ私が就職活動をした時はリーマンショックによる金融・経済危機の影響を受けた年で、非常に厳しい状況でした」
100社受けても1社も受からないというような人も多く、就活生は絶望感に満ちていた。
また大きな出版社は東京に集中しており、就職活動のために北海道から東京まで移動するのも大きな負担だった。
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