まるでバブル期、タイ人の消費意欲と人生観 盛り上がるアジアの若者消費(タイ編その2)

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意識高い系の若者が多い?

この、若者たちがすぐ仕事を辞めてしまう、ジョブホッピングが多すぎるという傾向は、2005~2009年ごろの中国の大都市部、上海や北京と同じです。当時、中国へ調査に行ったとき、いろんな経営者が「80后(バーリンホウ=1980年代生まれ)が1年で辞めちゃうので困る」と言っていました。タイで若者に話を聞いていて、すごく似た感覚を抱きましたね。

なので、街では起業志向や独立志向を強気に主張する若者が目立ちました。言ってしまえば、ほかの国の若者に比べてイラッとするというか、鼻につく若者が多かったのです。口には出さないけど、僕らサラリーマンのことをちょっとバカにする空気というか(笑)。日本で一時よく言われた「意識高い系」を彷彿とさせます。20歳の女性でも、「キャリアアップするわ!」とか「子育てと起業の両立を」なんてサラッと言っちゃうわけです。

晩婚化・少子化という宿命

友人関係、中でも男女関係には、国の発展度が見て取れます。途上国である隣国ミャンマーと比べるとわかりやすいのですが、ミャンマーだとデートで男の子は女の子の分も全部払います。しかしタイ、特にバンコクだと、男女で割り勘もあり、という空気になってきます。女性側からすると、アプローチ中はおごってほしいけど、付き合い始めたら割り勘でいいわ、と。日本とほとんど同じですね。日本の場合、さらに進行してヒモ願望のある男も出現しつつありますが……。

20歳の女性いわく、結婚は考えたことがない。仕事を安定させてから。でも30歳を超えたくない――というイメージを持っていました。そして結婚しても仕事は続ける。いわゆるバリキャリ志向で、お金持ちになったとしても、やりがいがあるなら仕事は続けたいと言っていました。

大学進学率の上昇は、確実にタイの若者の晩婚化に拍車をかけています。さらに彼女も「子どもはひとりで十分」と言っていました。隣国ミャンマーの若者が兄弟8人の△番目で……だのと言っている状況からすると、今後、数年間でタイの少子化は加速度的に進行しそうです。

興味深いのが、この女性に「30歳になったら何をしている?」と聞いて返ってきた答え。「バンコクから離れてもっと静かなところに住んでいる」でした。もちろん彼女の答えがタイの全若者を代表しているわけではないですが、経済発展の一方で、喧騒から離れたいという願望も一方で生まれている事実は、注目に値します。「若者が上京志向一辺倒である」という発展フェイズをすでに通過したのか。あるいは日本で言うなら、かつてはやったロハスとか、田舎暮らしとか、そういった気持ちの向き方なのかもしれません。

東南アジアの中で、いち早く先進国のステージに駆け上りつつあるタイ。経済発展の度合いからしても、日本の若者と類似しているマーケティングのしやすさからしても、日本企業が東南アジアの若者を相手にビジネスをする際には、最初のステップとして外せない足場であるのは間違いないでしょう。

(構成:稲田豊史)

原田 曜平 マーケティングアナリスト

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はらだ ようへい / Yohei Harada

1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』『寡欲都市tokyo』などがある。YouTubeはこちら

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小祝 誉士夫 TNC代表取締役/プロデューサー

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こいわい よしお / Yoshio Koiwai

TNC代表取締役/プロデューサー。70カ国、200地域に長期滞在する500人の日本人女性がリサーチャーとして現地のライフスタイルやトレンドを詳細リポートするサービス「ライフスタイル・リサーチャー」を運営する。

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