信長は義元のいる本陣にすべての兵力を集中します。
戦力=人数×武器効率
で推し量る、ランチェスターの法則でいうところの「狭域戦」に持っていくわけです。
「広域戦」の戦力計算式は人数の二乗×武器効率ですが、これをぐっと方向と範囲を狭めて「狭域戦」、つまり狭い範囲に持ってくると、この二乗の部分が消えます。だから変数は武器効率だけに限定できるわけです。
この戦における武器効率というのは、ものすごい新兵器があったわけではなく「武器がうまく使える」状況を指します。自分たちには土地勘がある、相手が油断している、雨で見通しが悪く自分たちは見つかっていない、そして機動力、つまり速さがあったということです。
織田:人数3000×土地勘がある、油断していない、敵の居場所を特定、機動力がある
「武器効率」で倍近い兵力差を覆す
このように、ほぼ互角以上の戦いができる「狭域戦」に持ち込めたおかげで、義元を見事討ち取ることに成功しました。
この勝利は、おそらくラッキーだったところが相当大きいと思います。義元を討ち取れたからよかったものの、もし逃げられていたら、どうやっても勝ち目はなかったでしょう。信長としては本当にイチかバチかの、万に一つの懸けに勝ったという、そういう意味での激勝だったわけです。
さて3000の兵で5000の兵を討ったのはいいですが、問題はここからです。先行している今川兵は、あと2万います。普通に考えれば、この大兵団が引き返してくれば3000と2万になって、しかも戦える場所が限られています。
今度は圧倒的に敵の兵数が多いため、どう考えても勝てないはずですが、今川家はいわゆるPDCA型の組織で現場の将や兵の1人ひとりが自ら判断する自由を与えられていません。P(計画)をつかさどるリーダーの義元が討たれてしまうと一気に軍は総崩れになってしまいました。今川義元1人討ち取られただけで、この2万の軍隊はまさに散り散りになって逃げるという悲惨な状況を招いてしまったわけです。
通常はPDCA型の組織は、計画さえ破綻しなければ、その改善をしてどんどん修正していく力が働くのですが、計画そのものが破綻した場合は臨機応変に立て直すことができません。これは現代の大企業でも同じで、大きな計画が崩れると、人が多い分だけ統制が取れなくなってガタガタになるのはよくあることです。
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