星野リゾートが「温泉旅館」で海外進出する真意 「30年で激変」日本文化に対する世界の理解

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なお、温泉旅館離れが進むほかの原因として、今も慣習として残っている「心づけ」などは煩わしいので、やめるべきだと星野氏は言う。日本で外資系のホテルに宿泊してもチップはとられない。余計な気遣いをせずに泊まれるホテルのほうが、ユーザーに好まれるのは当然であろう。

日本人の生活スタイルや価値観は、ここ数十年で大きく変化したのであり、温泉旅館の側もそれに合わせて変わっていかなければ、淘汰されてしまうということなのだ。

見習うべきはフランス

最後に、今後、海外に日本の温泉文化を正しく広めていくためには、どのようなことが必要かということについても考えてみたい。

これは海外旅行先で多くの人が経験することだと思うが、海外に行くと、本物の日本料理とは似ても似つかない「日本料理」に遭遇することが多々ある。温泉旅館が同じようにならないためにできることはあるだろうか。この質問に対して星野氏は、「見習うべきはフランスだ」と言う。

「フランスは褒めることによってフランス料理の王道を世界中に知らしめることに成功している。例えば、『ボキューズ・ドール』という国際的な料理コンクールを開催するなど、世界各地でフランス料理の普及に貢献している人に勲章を授与するといったことを通じて、『これが本物のフランス料理だ』と啓発している。

日本もこれと同じことを行えばいい。海外で本物の寿司を出している店に、日本政府から勲章やお墨付きの証明書を出してはどうだろうか。そうすれば、それを意識して王道を目指して仕事をする人は必ず出てくるし、その人たちの店が繁盛するといった好循環が生まれるかもしれない。また、お客さんの側も『この証明書が掲げられている店で出されているのが本物の寿司なのだ』と学ぶことができる。寿司店を例にしたが、温泉旅館にも、もちろん同じことが当てはまる」

さて、以上のような「日本の温泉旅館・温泉文化は世界に通用する」という星野氏の話を裏付けるような動きがあるので触れておきたい。星野リゾートが海外に日本旅館で進出するのとは逆方向の動きとして、海外の大手ホテルチェーンが日本国内で旅館を運営しようとしているのだ。具体的にはハイアットが2025年をメドに「ATONA(アトナ)」という新ブランドでの出店を目指している。

こうした双方向の動きが今後加速していけば、寿司やアニメと同じように、日本の温泉文化が世界に広く認知され、「日本の温泉旅館が、世界に誇るべき本物のホテルカテゴリーの1つとして認められる」(星野氏)という日が、近い将来、やってくるかもしれない。

森川 天喜 旅行・鉄道作家、ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など

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