星野リゾートが「温泉旅館」で海外進出する真意 「30年で激変」日本文化に対する世界の理解
「アメリカに留学していた30年前、刺身を食べる私を見て大学院の同級生たちは、『日本人はローフィッシュ(生魚)を食べるのか!』と物珍しそうに見ていた。しかし、あれから30年が経ち、今では彼らはニューヨークで普通に寿司を食べている。この30年で、世界の日本文化に対する理解は、劇的に変化した。
ここで重要なのは、なぜ寿司が世界で受け入れられたのかということだ。それは、寿司に『本物さ』があったからだと思う。上質でヘルシーなものを食べたいという彼らの要求に応えられる本物であったからこそ、寿司は世界中に広まったのだ」
星野氏は温泉旅館に関しても、これと同じことが言えるとする。「湯治」という言葉があるように日本の温泉文化は、元々、ウェルネスの観点で非常に価値が高い。また、旅館に逗留して天然の温泉に浸かり、ヘルシーな日本食を食べながら、ゆったりとくつろぐスタイルは、海外のリゾートに求められている昨今のトレンドにも合致している。さらに、日本らしい建築、部屋やスタッフの衣装などのデザインを含め、日本旅館は“日本文化のテーマパーク”として、海外の人たちの興味を引くはずだというのだ。
なお、日本の温泉文化が海外で問題なく受け入れられている事例として、星野氏は2019年6月に台湾・台中市の温泉地グーグァンに出店した「星のやグーグァン」を挙げる。
「グーグァンの他社施設では水着を着用して温泉に入っているが、『星のやグーグァン』では日本式の入浴スタイルを採用している。同施設は台湾人の利用者が多く、彼らは日本の温泉文化を体験しに来ている。だから、私たちとしても本物の日本の温泉文化を提供すべきなのであり、そして、それは問題なく受け入れられている。『本物さ』があれば、海外でも支持されることを証明する事例だと思う」
国内では温泉旅館が減少
さて、ここで国内に目を向けると、とくに地方において旅館が減少しているというデータがある。観光庁の統計を見ると、全国の旅館の件数がこの30年で半減している一方で、ホテルは倍増している。これは旅館という営業スタイルが、インバウンドも含めて受け入れられていないことを示しているという見方もできないか。この点についての星野氏の考えは、次の通りだ。
「日本国内の年間約27.9兆円という巨大な旅行市場において、インバウンドはそのうちの約4.8兆円にすぎない(筆者注:2019年時点)。旅館の数が減っているのは、インバウンドに受け入れられているかどうかということよりも、むしろ日本人に受け入れられていないことに主な原因がある。
日本人の若年層、とくに若い女性が『田舎の鄙(ひな)びた温泉旅館は、なんとなく清潔ではない』と敬遠しているという傾向は、私が今の仕事を始めた30年前からすでに出はじめており、2011年に私たちが温泉旅館ブランドの『界』を立ち上げたときに行ったマーケティングのデータにも、はっきりと表れていた。『界』ブランドを立ち上げ、『王道なのに、あたらしい。』というコンセプトを打ち出し、温泉旅館の良い部分を維持しながらも変えるべきところは変えることにしたのには、日本人の温泉旅館離れを食い止めたいという意図があった」
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