星野リゾートが「温泉旅館」で海外進出する真意 「30年で激変」日本文化に対する世界の理解
加えて、ここ数年で旅行・宿泊業界は感染症の流行だけではなく、ゼロコロナのような外国政府の政策や、国際紛争、自然災害などによって旅行需要が大きく変動するリスクがあることを、身をもって体験した。経営資源を分散することは、こうしたリスクへの対策としても重要であるのは言うまでもない。
では、今後、北米大陸へ進出するにあたり、西洋式のホテルではなく日本の温泉旅館のスタイルで勝負するのはなぜなのか。この点を問うと、星野氏は自身がアメリカの大学院に留学していた頃の、ある経験から「海外に打って出るときに武器になるのは温泉旅館」だと思うようになったと言う。
「1980年代のバブル期に、日本のホテルチェーンがアメリカに進出したものの、残念ながら失敗して撤退した過去がある。その原因として『バブルの崩壊』ということが挙げられていたが、私が思うに、失敗の根本的な原因はほかにある。
当時、私はホテル経営を学ぶためにアメリカの大学院に留学していたが、多くの同級生たちから『日本人がアメリカに来て、なぜ西洋式のホテルを運営しているのか』という質問を受けた。つまり、欧米人から見れば、日本人が海外で西洋式のホテルを運営するというのは、日本人が海外で寿司を握るのではなくフランス料理をやっているのと同じなのであり、必ず『なぜ?』という疑問が湧く。もちろん悪いことではないが、心にスッと入らない」
このエピソードを踏まえて星野氏は、次のように分析する。
「私たち日本人は好むと好まざるとにかかわらず、世界に出るときには、どうしても日本文化というものを背負わざるをえない。そして、日本文化は、世界においてリスペクトされるべき重要な文化として認識されている。だから、日本人が海外に進出するときには、どこかで『日本らしさ』を出さないと彼らも納得しない。これは、マーケティング上、非常に重要な視点だ」
このような視点で見たとき、星野リゾートが西洋式のホテルではなく日本の温泉旅館でアメリカへ進出するのであれば、108年の歴史がある日本の旅館運営会社が、アメリカで温泉旅館の運営を始めたということで、当然のこととして理解されるだろう。また、日本人が日本式のサービスを提供しているのだから、「本物」のサービスが提供されていると彼らは認識し、満足してくれるはずとの読みがあるのだ。
日本の温泉文化は受け入れられるか
海外にも温泉に入る習慣がある国はあるものの、水着を着用して入るスタイルが一般的だ。だが、星野氏は北米に進出する際にも、「水着を着用せずに大浴場に浸かる日本の入浴スタイルは、そのまま踏襲しようと思っている」と言う。
果たして日本の温泉文化は欧米ですんなりと受け入れられるのだろうか。コロナ前、日本を訪れた外国人が、町の銭湯で下着を着用したまま湯船に入って問題になったことは、未だに記憶に新しい。
この疑問に対して星野氏は、「最初は文化の違いの壁にぶつかることはあると思う」としつつ、ここでも自身のアメリカ留学時の経験をもとに次のように分析する。
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