職場の同僚(本稿では上司、部下も含みます)の性的指向や性自認の内容を本人から聞いた場合、又は何かのきっかけで知るに至った場合、それを知った側が、職場の別の同僚に話すといったことがあり得ます。
ですが、性的指向および性自認は個人情報の中でも特に取り扱いに配慮が必要な情報と考えられています。そして、多様な性的指向および性自認が広く受け入れられているとは言えない現代社会において、性的指向および性自認の内容はセクシュアルマイノリティにとって非常に重大でセンシティブな情報となります。
そのため、アウティングをした労働者は、パワハラ(SOGIハラ)を行ったとして在籍する会社から何らかの処分(懲戒処分)を受けることがあり得る、というだけでなく、暴露された同僚本人のプライバシー権を侵害したとして、不法行為に基づく損害賠償義務を負うことがあり得ます。
職場のアウティング事案ではありませんが、大学院の学生Bが大学院の同級生複数名で作るLINEグループで同性愛の性的指向を暴露され、その後心身共に不調となり、校舎のベランダから転落して亡くなったという事案において、亡くなった学生の遺族は暴露をした同級生および大学に対する訴訟を提起しました(同級生とはその後和解)。
この訴訟で東京高等裁判所は「本件アウティングは、Bがそれまで秘匿してきた同性愛者であることをその意に反して同級生に暴露するものであるから、Bの人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害するものであって、許されない行為であることは明らかである」と判断しています。
職場の同僚から性的指向や性自認の内容を聞いたからといって、それだけでは、「その同僚の性的指向や性自認の内容を他の第三者に話すことについて同意を得た」ということにはなりません。この点をしっかり認識しておきましょう。
どんなときもアウティングは許されない?例外はある?
職場の同僚から、これまで秘匿していたであろう多数派ではない性的指向や性自認の内容を告白(カミングアウト)されたほうの立場からすると、そのカミングアウトに驚き戸惑うことがあると思われます。誰かに相談したいと思う状況が出てくることがあるかもしれません。
アウティングがパワハラ(SOGIハラ)やプライバシー権侵害に該当する可能性があるとなると、職場の同僚から性的指向や性自認の内容を聞いた場合、その同僚本人の同意がない限りそのことを他の第三者にいっさい開示することはできないのか?という問題が出てきます。
これは非常に難しい問題であり、また裁判例の蓄積がされていないところではありますが、アウティングが違法とされるかどうかは、対立する当事者の権利・利益の比較衡量で判断されると思われます。
具体的には、個々の事案ごとに、「カミングアウトした方の人格権やプライバシー権に基づくその事実を開示されない法的利益」と「職場の同僚からカミングアウトを受けた方が他の第三者にそれを開示する必要性、開示態様等の相当性」を比較して判断することになると思われます。
個別事情によるところが大きいですが、過去の裁判例を参考にすると、例えば、職場の同僚から自分への恋愛感情を告白され、性的指向や性自認のカミングアウトを受けたことで職場の人間関係が過度にぎくしゃくし、部署の変更や退職を考えたとします。
カミングアウトを受けた側が人事部の担当者といった必要かつ限定された範囲の人に対してのみ、部署の変更や退職の理由として説明をするようなときには、違法なアウティングに該当する可能性は低くなると思われます。
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