「うつ状態」とは、身体的な病気にたとえれば「お腹が痛い」と言っているのと一緒です。痛みはあるけれど、
「その原因は何なのか」
というところがまだわかっていません。腹痛だったら便秘の可能性もあるし、虫垂炎、十二指腸潰瘍や腸閉塞、胆石かもしれないけれど、今のところは「お腹が痛い」という症状があることだけがわかっている状態です。
1、2回の診察では病名がわからないことも多い
もっとも腹痛であれば、触診したりレントゲンを撮ったりして、ある程度病名を絞り込むことができるでしょう。しかし、精神疾患となると、1、2回、患者さんを診察しただけで病名を特定するのは、医師にとっても簡単ではありません。
そのため、一度出した診断が、のちに変わることもよくあります。それがまさに心の病気の難しいところで、原因を探るのが難しいだけでなく、症状が段階的に変化したり、別の症状を引き起こしたりすることも珍しくないのです。最初は「うつ病」と診断されたとしても、そのうち「双極性障害」、俗にいう躁うつ病であるとわかったケースはいくらでもありますし、むしろそういう病名が変わる展開になるほうが断然多いでしょう。
こうした事実が一般的にあまり知られていないことも、誤解を生む原因になっているようです。
また、たとえ「うつ病」という診断は出せなくとも、「うつ状態」に合わせて、その症状を緩和するお薬が処方されます。憂うつな気分や不安感が強かったり、夜に眠れなかったりする状態であることは確かですから、医師は、
「眠れないなら睡眠薬を飲んでみますか」
「不安を抑えるお薬を出しましょうか」
と、患者さんにお話しします。
ただ、患者さんの立場に立って考えてみると、お薬を処方されることで、
「自分は病気なのだ……。つまり、うつ病なんだろう」
と思い込んでしまいそうですよね。
ですから、もし診察を受けたご家族から「うつだった」「うつ病だった」と報告を受けたとしても、慌てずに落ち着いて、医師から具体的にどのように言われたのか、どのような話をしたのか、詳しく聞いてみるのが大事です。
「うつ状態」であれば、「うつ病」の可能性はもちろん、別の病気の可能性もまだ捨てきれません。一時的な状態にすぎず、まだ病名がつかない可能性もあります。うつ病とうつ状態をひとくくりにしないで考える必要があるのです。
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