「ワーク・ライフ・バランス」が「無理ゲー」な理由 「いい子」を生む経済成長前提の社会構造の限界

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「仕事と生活の調和と経済成長は車の両輪であり」とありますが、その後の文章も合わせると、「仕事と生活の調和」は経済成長のためにあると解釈できます。経済成長は人びとが労働市場に参加することでなされるとも書いてあることから、ワーク・ライフ・バランスとはしっかり労働できるように個人の時間をコントロールしなさいよ、という話なのだと理解できます。

僕がワーク・ライフ・バランスという言葉に違和感を覚えたのはこの点です。内閣府が出しているのは、人間が生きやすい社会ではなく経済成長のために労働者が働きやすい社会を作ろうというメッセージなのです。

しかし本来働くことは経済成長のためにあるのではなく、人間が生きていくためにあります。結果的にそのことが経済成長に資することもあるかもしれませんが、はっきり言って、人間や自然環境を犠牲にしてまで経済成長を目指していた時代は終わりました。ワーク(働くこと)とライフ(生きること)を分離させ、経済成長を推し進めてきた背景には戦後社会という特殊な事情がありました。

経済成長前提の社会構造が生み出した「過労死」

経済学者の森岡孝二さんは、経済成長は太平洋戦争後に日本がめざしてきた経済運営の第一目的であったと述べています。そしてこの「経済成長はすべてに優先する」という原則は、以下のような条件の組み合わせによって成立したとしています(『過労死は何を告発しているか 現代日本の企業と労働』岩波現代文庫、36-37頁より)。

①敗戦後の飢餓的生活のなかで国民の生活水準の向上
②敗戦後の財閥解体や農地改革などの民主化措置
③1954年12月から57年6月にかけての「神武景気」や、58年7月から61年12月にかけての「岩戸景気」の経験
④「新長期経済計画」(1957年)、「国民所得倍増計画」(1960年)、「新産業都市建設促進法」(1962年)、「全国総合開発計画」(1962年)などによる高度成長政策の推進
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