「減税を盲信する人」に知ってほしい公共軽視の罠 パンデミック・エネルギー・教育・医療、課題山積
むしろ、協同組合や非政府組織(NGO)や財団など、さまざまな制度的枠組みからなる豊かな環境があること、かつうまく機能する社会はこうした組織の混合からなり、それは国ごとにも時代ごとにもさまざまであるということを、われわれは認識すべきである。
郵便制度や鉄道の民営化は意味があるかもしれないし、ないかもしれない。イギリスの鉄道民営化は広く失敗例と見られている。また日本の郵便制度の民営化は依然として異論のあるところである。アメリカでは、核兵器製造にとって重要な要素である濃縮ウランを製造する会社が民営化されたが、このことはほぼ間違いなく最悪な決定の一つと見なされている。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まった当初には、こうした見方はさらに広まってきた。ヨーロッパが短期的な視点からロシア産ガスへの依存およびエネルギー市場の民営化構想を推進したのは、ほかの要因もあるが、分配上の影響を十分に配慮しない、極端に単純化された経済学と結びついたイデオロギーである。
電力価格はガス価格と関連しており、ガス価格が高騰したときには、多くの家庭は生活苦に直面することになり、また多数の企業が倒産することになった。こうした影響は、民営化などの方策がもたらす効率性のわずかな改善効果を大きく上回っていた。
公共政策はグローバルに
戦争それ自体および中国との新しい冷戦もまたグローバリゼーションを基本的に変化させてきた。各国の公共部門の政策はグローバルな視点から示されている。国際的な協定が政府のなしうることを制約することもあるが、グローバルな市場の反応が政府のやるべきことを制約することもある。すなわち政府は、資本が海外に流出することや仕事が海外に奪われることを心配しなければならない。
これまで数十年間日本が優れていた分野の一つは技術政策であった。しかしアメリカやヨーロッパでは、「市場万能主義」が支配的であったほぼ40年間にわたって、技術政策は厳しい批判を受けてきた。政府が「勝利者を選ぶべきではない」、そしてどの技術を進めるかの判断は民間部門に任されるべきだと主張されてきた。
こうした議論において目立って多かったイデオロギー論争は避け、なぜ公共政策が必要なのか、なぜ技術開発を推進するためには公共政策がうまく企画されなければならないかを明らかにしたい。
興味深いことに、新冷戦が問題になりはじめるとアメリカは急きょ態度を変えた。これまで他国が産業政策をとっていることを批判していたアメリカは、半導体の生産を推進するために2500億ドルの多額予算の法案を通過させたのである。
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