「減税を盲信する人」に知ってほしい公共軽視の罠 パンデミック・エネルギー・教育・医療、課題山積
日本が現在直面している課題の一つは、製造業中心の経済からサービス部門と知識部門が中心となる近代的な経済に移行することである。日本経済が行わなければならないことはほかにもある。
それは人口減少への対応と化石燃料からの転換である。市場経済だけではそうした転換を行うことはできない。経済の古い部門を切り捨て新しい分野に向けるためには、前述した技術政策に類似した政策介入が不可欠になる。
もちろん日本は低成長を重要な問題の一つとして認識していた。そして「アベノミクス」の第三の矢として成長を再び活性化しようとしてきた。それは成功しなかったが、民営化と規制緩和というイデオロギーをあまりにも信用しすぎ、日本の高度成長期の特徴であった積極的な技術政策と大規模な投資に依存するのを躊躇しすぎたのかもしれない。
医療部門は新しいサービス経済の中心部門であり、かつパンデミックによってその重要性が認識された。アメリカにおけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)による高い死亡率の理由の一つは、貧弱な(主として民間の)医療保険制度によるものである。その制度では、他のどの国よりも1人当たりの支出額が多いにもかかわらず、平均寿命は他のほとんどの先進国よりも短くなっている。
教育システムの質が問われる
また知識経済は良質な教育システムに依存している。日本の医療や教育の分野には、製造業に匹敵するようなダイナミズムがあるのだろうか。それらは、日本の製造業が世界的であるように世界一流なのだろうか。もしそうでないならば、なぜなのか。そうした分野を改善するためには、何をすることができるのだろうか。
最高級の教育システムを持っていないことが極度に悪い結果をもたらすことは明白である。東アジアの多くの国々と同様に、日本がこれまでに達成してきた経済成長のいくぶんかは、知識ギャップ─日本と他の先進工業国との知識格差―を埋めるということで成し遂げられたのである。そしていくつかの分野では世界のリーダーとしての地位を築いた。
しかしもし日本の大学が、世界で最高の科学者になりえる能力を備えた学生を送り出していないならば、世界でリーダーシップをとり続けることはできないだろう。
日本は、約170年前の開国以来、世界市場では手強い競争相手であることを示してきた。日本の大学生は、このグローバル化した新しい世界に立ち向かうための準備が十分できているのだろうか。
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