「減税を盲信する人」に知ってほしい公共軽視の罠 パンデミック・エネルギー・教育・医療、課題山積

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もちろん、政府がお金を支出するとき、その資金は何らかの方法で調達されなければならない。誰も税金を支払いたいとは思わない。アメリカでは共和党政権がこの税金に対する反感を利用して減税を推し進めてきた。
その減税幅は、支出減を大きく上回るまでになり、政府はその差額を埋め合わせるために借り入れを行わなければならなくなった。その負債額は数年のうちに数兆ドルにまで累積するだろう。

事態をさらに悪化させているのは、減税が富裕層に向けられたものであり、拡大している不平等度をさらに加速していることである。そのことはほとんどの先進国で見られる問題であるが、アメリカは他国よりも悪化している。減税が投資を(公約したように)増加させず、成長促進のためにほとんど何の役にも立たなかった。

どう課税するか、科学的に分析する

日本でも国の債務は累積しており、その債務額の国民所得に対する比率は、先進国のうちトップ・レベル(その債務の多くは政府によって所有されているため、純債務額はずっと小さくなるが、それでも高い水準)であり、経済を再び活性化しようとする試みをかなり無駄にしてしまいそうである。これからの数十年のうちに、この債務を減少させるために増税しなければならないかもしれない。また経済効率と公平性の両方を促進するように課税を計画しなければならないということが絶対に必要だろう。

魔法のような解決策はないが、少なくとも特定の目的を達成するためには、ある税制は他の税制よりも良い結果をもたらすのである。公共経済学では、さまざまな代替的な政策を評価するための、科学的なフレームワークを示し、トレードオフすなわちそれぞれの政策の長所と短所を理解する。こうしたフレームワークのもとで、より多くの情報に基づいた決定が行われることになる。

世界は急速に変化している。日本が、パンデミックや気候問題の解決、また不平等危機の回避、さらには製造業中心からグリーンおよび高齢化社会でサービス・知識中心の経済に進もうとするときの大規模な構造転換を首尾よく行おうとするならば、公共部門が重要な役割を果たすであろうし、またそうしなければならない。

(翻訳:藪下史郎)

ジョセフ・E・スティグリッツ ノーベル経済学賞受賞経済学者

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Joseph Eugene Stiglitz

2001年ノーベル経済学賞および1979年ジョン・ベーツ・クラーク賞を受賞。イェール大学、オックスフォード大学、プリンストン大学、スタンフォード大学を経て、現在はコロンビア大学教授。クリントン大統領の下で経済諮問委員会の委員長、1997~2000年に世界銀行でチーフエコノミスト兼副総裁、2008~2009年の世界金融危機直後、「経済的パフォーマンスと社会的進歩の測定」に関する国際委員会、および「国際通貨金融システムの改革」に関する国連の専門家委員会において議長を務めた。研究活動においては、非対称情報のもたらす影響を探求し、新しい経済学分野である情報の経済学の発展に貢献した。

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