「プロバイダ責任制限法改正」SNSの誹謗中傷は? 今年10月に施行、手続きなどが楽になったが…

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さて、本件で筆者が取材を受ける際に、よく聞かれるのが「このような法改正により誹謗中傷は無くなるのか?」ということである。

言うまでもないが、無くなるということはありえない。なぜなら、誹謗中傷はネット普及前からあったものであり、それが急に法改正をしたからといって撲滅されるなどということはありえないためだ。

では、誹謗中傷への抑止効果はどの程度期待されるのだろうか。結論からいうと、筆者は抑止効果は限定的であると考えている。なぜなら、誹謗中傷している人の多くが「自分が正しく相手が間違っている」と考えており、誹謗中傷していることに気づいていないケースが多いためだ。

筆者が以前、ネット炎上に書き込む動機について調査したところ、約60~70%の人が「間違っていることをしているのが許せなかったから」や「その人・企業に失望したから」といったような、その人の中の正義感で書き込んでいることがわかった。

ただしここでいう正義感とは、社会的正義ではない。あくまでもその人の価値観で「正・悪」を決め、正義を振りかざしているのである。1億人いたら1億通りの「正しい」があり、その価値観で思い思いに書き込みをしているといえる。

このことは誰でも誹謗中傷の加害者になり得ることを示していると同時に、本法改正でも抑止力が働きにくいことも示している。自分が正しいから書き込んでいると思っている人にとって、被害者から特定されやすくなることはデメリットになると認識できないからだ。

被害者救済などに期待

それでも、被害者が訴えやすくなること自体にこの法律の意義がある。今まで泣き寝入りしていた人も、ある程度訴えることが簡単になれば法的手段をとれるようになるかもしれない。被害者救済効果があるといえよう。

また、それによってネットの誹謗中傷に対する裁判が増え、それが報道されれば、社会全体に「匿名で攻撃していても訴えられる」という認識が広まる可能性がある。とくに近年は、ネットで攻撃を受けた著名人が裁判を起こすケースも増えている。

そのような認識が広まれば、人々が言葉の使い方について気を付けるようになり、誹謗中傷が減っていく可能性もある。

なお、誹謗中傷と批判に明確に線引きをするのは難しいが、主に「その人自身を侮辱・攻撃しているもの」は誹謗中傷となる。

例えば、「アホ」や「バカ」などの抽象的な悪口や、「死ね」などの脅迫的な悪口、容姿に対する悪口、人種・性別・宗教などでの差別、うその情報や真偽不明情報を用いた攻撃、こういったものは誹謗中傷といえる。過去には、「死ね」「ブタ」「アホ丸出し」などを含むネット上の発言に、侮辱罪が認められたことがある。

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