「マイナ保険証」と「保険証」どこが違うか徹底解説 薬の管理が楽に、気になる個人情報は大丈夫?

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現在(2022年11月)、患者の同意のもと、オンライン資格確認等システムで医療機関側が閲覧できる薬剤情報は、新しくても1カ月くらい前までのものだ 。これは、医療機関が月単位でまとめて請求業務に使うレセプト(診療報酬明細書)の情報に基づいているからだ。

電子処方箋は、オンライン資格確認等システムを拡張し、電子処方箋管理サービスの機能を設け、処方箋の情報を医療機関と薬局の間でリアルタイムでやり取りするものである。患者側は、電子処方箋の内容をマイナポータルで見ることができるし、スマホにインストールした電子版お薬手帳でも、閲覧が可能になる見込みだ。

電子処方箋の機能として注目したいのは、医師による処方(電子処方箋)の情報をもとに、自動的に重複投薬・併用禁忌のチェックを行い、該当する場合はアラートが出るようになっていることだ。

ただし、このアラートだけでは処方された薬剤のうち、どの薬剤が重複投与・併用禁忌なのかはわからない。ここで保険証とマイナ保険証の間で差が出てくる。マイナ保険証を使っていて、顔認証付きカードリーダーで「過去のお薬情報の提供」に同意した場合は、医療機関側において電子処方箋の機能を使い、その患者が最近までどのような薬剤が処方されていたか把握することができる。そのため、どの薬が重複や併用禁忌で問題なのかがひと目でわかる。

一方、保険証を使っている患者は、そのような形で同意する道具がない。電子処方箋の仕組みでは同意の手段が用意されているぶん、マイナ保険証が有利になっている。しかし、電子処方箋の運用が始まったら、保険証の場合は「高額療養費/限度額適用認定証のように、口頭での同意でよいではないか」といった意見が出るかもしれない。

マイナ保険証に一本化する過程での課題

最後に、安全性の観点から、マイナ保険証に一本化する過程での注意点を見ておこう。

保険証の廃止が話題になった直後、2022年10月13日に開催された社会保障審議会医療保険部会で、健保組合を代表する委員が「発行されている保険証をすべて回収しない場合、保険証の不正使用につながる恐れがある。その確実な対処方法があるか」と、指摘した。

10月13日に開催された社会保障審議会医療保険部会(筆者撮影)

これまで見てきたように、保険証とマイナ保険証の機能としての違いは、主に同意に関するものだ。それについては、①マイナ保険証を使う人たちが顔認証付きカードリーダーで、内容もよくわからないまま「同意」のボタン押す問題②マイナ保険証、保険証それぞれにおいて同意できる範囲③患者の安全に関わる薬剤の情報(将来的にはアレルギーなどの情報)の同意は不要ではないか――など、論点は多い。

保険証が廃止されるかもしれない2024年秋に向けて、患者目線での検討が必要だ。

牧 潤二 医療ジャーナリスト

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まき・じゅんじ / Junji Maki

1950年生まれ。東京経済大学経済学部卒業。82年独立し牧事務所を開設。医療保険や診療報酬制度等について行政関係の動きを取材・執筆。主な著書は『官報の徹底活用法』(サンドケー出版局)、『在宅医療サービス徹底活用ガイド』(PHP研究所)、『すぐわかる介護保険』(KKベストセラーズ)、『詐病』(日本評論社)ほか。所属団体は、日本医学ジャーナリスト協会、日本医史学会、日本薬学会、日本写真学会など。

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