日本で「群集事故」が起きた場合"最悪シナリオ" クリスマス、年末年始、災害時に「危険度高い街」

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つまり大都市においては、地震時はただでさえ至るところで過密空間が発生しやすくなるのに加え、3種類のトリガーすべてに問題が生じることも想定しなければいけません。

事実、99年前に発生した関東大震災では、「橋の上に衝突して押潰され踏み倒され、橋より落ちて大河に沈むもあり、欄干に押し付けられて絶息するあり、宛然白兵戦のそれに似て、物凄しとも恐ろしとも更に形容の言葉もなく、此処に命を損すもの又幾許なるかを知らない」(※3)と群集事故の発生が報告されています。

当時の東京市の人口は約200万人ですから、より人口が密集した現代の大都市において地震時に群集事故が発生しないとは言いにくい、というのが本音のところです。

どのように身を守ればいいのか

それではこのような群集事故に対して、来訪者の立場からはどのような身の守り方があるでしょうか。

大前提は過密空間をつくり出さないことと、過密空間における群集事故の危険性を認識することです。社会全体で大都市における一斉の徒歩帰宅を抑制する帰宅困難者対策は、地震時において群集事故の発生を防ぐ対策として東日本大震災以降、精力的に進められています。

一方で、ひとたび過密空間に巻き込まれると、自分の意志では立ち止まることも脱出することも困難となります。子どもや高齢者は群集事故で犠牲になるリスクが高いことが知られていますが、そのような人と一緒にいる場合は特に、なるべく過密空間には近づかないことが最重要と言えます。

さらにはトリガーとなる現象を発生させないことも重要です。具体的には「ソフト」と「心理」をきちんと機能させること、例えば警備員や警察官などの指示に従う気持ちを落ち着かせる「みんなで助け合おう」という意識を周囲と共有する、という対応が重要だと言えます。

今回の事故で犠牲になった方々のご冥福をお祈りするとともに、多くの方に改めて群集事故の危険性について認識をしていただきたいと考えています。

 

参考文献
※1 中央日報「【韓国梨泰院圧死事故】『有名人が登場すると人々が集まったそうだ』圧死の原因を究明する防犯カメラ確保」2022年10月31日
※2 廣井悠「首都直下地震がおきたらどこが混雑する?」Yahoo!ニュース、2015年9月1日
※3 藤田二郎、関東大震災写真帖 : 大正十二年九月、1923.09.

廣井 悠 東京大学大学院教授

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ひろい ゆう / U Hiroi

東京大学大学院工学系研究科・教授。1978年10月東京都文京区生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・博士課程を2年次に中退、同・特任助教、名古屋大学減災連携研究センター・准教授、東京大学大学院工学系研究科・准教授を経て2021年8月より現職。博士(工学)、専門は都市防災、都市計画。平成28年度東京大学卓越研究員、2016-2020 JSTさきがけ研究員(兼任)。受賞に平成24年度文部科学大臣表彰若手科学者賞、都市住宅学会学会賞、東京大学工学部Best Teaching Awardなど。

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