大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 「新自由主義」への反省と民主的多元主義の再生

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本書は、現代の欧米社会や日本社会を見つめ、評価するうえで大いに役立つ。日本の読者にとくに有益だと思われる3点について触れたい。

第1に指摘したいのは、グローバル化と自由民主主義の相性の悪さを明らかにしている点である。日本では「グローバル化」はまだまだ前向きで良い印象を与える言葉である。しかし、本書が論じるように、新自由主義に基づくグローバル化政策は、自由民主主義の政治の基盤を掘り崩してしまう。

この点については、さまざまな論者が明らかにしてきた。例えば、本書第9章でも触れているが、労働経済学者のダニ・ロドリックは、グローバル化に伴う資本の国際的移動の自由化・活発化が各国の経済政策に及ぼす影響について指摘した(柴山桂太・大川良文訳『グローバリゼーション・パラドクス』白水社、2013年、第9章)。

各国の一般庶民が政治の主役ではなくなってしまう

グローバル化とは一般に、ヒト、モノ、カネ(資本)、サービスの国境を越える移動が自由化・活発化することを意味するが、これが生じると、必然的に、グローバルな企業関係者や投資家(本書でいうところの管理者<経営者>エリート)の力が増す。彼らは「人件費を下げられるよう非正規労働者を雇用しやすくする改革を行え。さもなければ生産拠点をこの国から移す」「法人税を引き下げる税制改革を実行しないと貴国にはもう投資しない」などと各国政府に圧力をかけられるようになるからである。各国政府は、自国から資本が流出すること、あるいは海外からの投資が自国を忌避することを恐れ、グローバルな企業関係者や投資家の要求に敏感にならざるをえない。そのため、各国のルールや制度はグローバルな企業や投資家に有利なものへと「改革」される。だが、その半面、各国の一般庶民の声は相対的に政治に届きにくくなる。庶民層が各国政治の主役ではなくなってしまうのである。そして彼らの生活は不安定化し、貧困化が進む。

これに加え、リンド氏が本書で強調するのは、前述のとおり、民主的多元主義の基盤が掘り崩されてしまうことである。庶民層が政治に声を届けるには、各人が組織化され、各種の中間団体が形成されていなければならない。戦後の欧米諸国では(リンド氏は触れていないが後述のとおり日本も同様)、労働組合や協同組合などの各種中間団体を通じて庶民の声が政治に反映され、資本家に対する拮抗力を獲得し、比較的公平な政治が行われた。また、経済的格差も小さかった。

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