大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 「新自由主義」への反省と民主的多元主義の再生
しかし、グローバル化により、資本の国際移転、仕事の国境を越えた外部委託(アウトソーシング)、外国人労働者や移民の大規模受け入れなどが可能になると、労働組合などはあまり機能しなくなる。政治的影響力のバランスが崩れ、不公正な政治が行われるようになる。
ネイションの境界を溶かすグローバル化の下では、自由民主主義の維持は非常に困難である。やはりネイションを軸とした秩序、つまり多数の国民国家からなる世界である必要がある。そして、各国は、民主的多元主義のシステムを内部に発展させ、国民各層の利害のバランスをとりつつ、ヒト、モノ、カネ、サービスの国境を越える移動を適切に規制・調整していく。現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある。
寡頭制vs. ポピュリズム
第2に、本書は現在の欧米の主流派の政治、およびそれに対する反発としてのポピュリズムの政治を見つめる新たな視角を提供する点で有益である。
日本のマスコミや評論家は、欧米の主流派マスコミの情報をもとにして世界を見ていることが大半である。それゆえ、どうしても一面的な見方に陥ってしまう。ブレグジットやトランプ前大統領の選出など現代のポピュリズムに対する見方もそうだ。ポピュリズム現象とは、グローバル化に乗り遅れた時代遅れの不適合者が騒いでいるにすぎないという見方をとりがちだ。
他方、ネット世論では逆に、その反動からかポピュリズム運動を全面的に肯定してしまう議論がしばしばみられる。トランプ氏を英雄視してしまうような議論だ。
本書は、第3の視点を提供する。現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。
リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある。
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