大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 「新自由主義」への反省と民主的多元主義の再生
それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例である。リンド氏は、庶民層に深い共感の念を抱いているが、ポピュリスト運動を必ずしも支持しない。ポピュリスト運動は、エリート層による社会の寡頭制支配やそれに伴う国民の分断という「病理」から発する「症状」の1つだとみなす。寡頭制支配を行うエリート層に対し、脅威を感じさせたり、その身勝手さに対する警告を発したりする機能は持つとしても、「病理」そのものへの根本的「治療」にはならないからである。
エリート層の認識と「対症療法」的措置
エリート層は、庶民層のポピュリスト運動が発する警告を真剣に受け取ろうとしない(第6章)。むしろ、庶民はロシアの諜報活動に踊らされているだけだといった陰謀論をつくり出してしまう。あるいは、ポピュリストの政治家や政党の支持者を、「権威主義的パーソナリティー」などの精神病理を抱える者だとエリート層は認識してしまう。ポピュリズム運動をかつてのナチズムと同様、社会不適合者による非合理な運動だとみなすのである。それによって、エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。
現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする(第7章)。リカレント教育(再教育)などの教育政策、ベーシックインカムなどの再分配政策、反独占政策といったものである。リンド氏は、これらを評価しない。根本的問題である権力関係の不均等を正面から見つめ、その改善を真摯に図るものではないからである。
リンド氏は、問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる(第8章)。庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。
そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える(第9章)。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要があるというのである。そうしなければ、労働組合などの各種の中間団体が機能せず、民主的多元主義に基づく公正な政治を行うことは不可能だからである。
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