低迷する日本女子マラソンの"深い闇" わずか2年でやめてしまう女子選手の苦悩

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女子実業団は選手の入れ替わりが激しい

男子の場合は「箱根駅伝」とういう特別なステージがあるため、高卒から実業団に進む選手は少数派だ。しかし、女子の場合は、大学の競技レベルが高くないこともあり、高校を卒業してすぐに、実業団に進む選手が結構いる。そして、とにかく選手の入れ替わりが激しい。学生時代に注目を集めた選手が、わずか数年で姿を消してしまうことも少なくない。

取材に応じてくれた元選手は、実業団チームの現状を、「せっかく実業団に入っても、2年くらいでやめてしまう選手は多いですよ。その理由ですか? ひとことで言うと、燃え尽きてしまうんだと思います」と話す。

彼女によると、高卒で入社した場合は、「2年」で最初の壁があるという。「会社の仕事はなんともないので、すぐにやめてしまう選手はチームの雰囲気が原因ですね。練習が合わない場合もありますし、人間関係がうまくいかないこともある。精神的に幼いまま、スポーツの世界にずっといるので社会人になっても周りが見えないんです」

スポーツエリートの道を歩んできた彼女たちは、陸上以外のことをまったく知らずに社会人になってしまう。それも早期リタイヤの原因だろう。「実業団」という業務形態は日本独自といってもいいシステムで、社員ではあるものの、やっていることは「プロ」に近い。駅伝チームを抱える女子実業団の場合、競技だけに集中すればいいチームと、昼ぐらいまで勤務して、午後から練習というチームがある。近年は勤務を課しているチームが増えている印象だ。

勤務なしのチームで競技をしていた元選手は、「朝練習をして、ポイント練習がない日は午前中に筋トレなどをして、午後は各自ジョグ。ポイント練習がある日は、朝練習をして、午後にポイント練習をやって終わりです。食事はチームで用意されます。マンションのワンフロアを借りて、そこにチームメイトと同居していたので、あまり規則もなかったんですけど、その分、自己管理が大変でしたね」と振り返る。

彼女は高校時代から名門陸上部で競技をしてきたこともあり、「走ることでお金をもらう」ことに違和感はない。「走ることで会社に貢献するのが選手の役割なので、一般業務をすることのほうが不自然に感じます。名門チームにはそう思っている人が多いと思いますね。ただ、実業団は高い目標もなく、何度も故障をするなど同じ失敗が許される場所ではありません。ケガをすると、給料泥棒だぞ、という言われることもありますよ」と話す。

別の元選手は朝練習と本練習以外に、9時から14時まで配属先で“待機”していたという。自分のデスクはあるものの、特に仕事はない。「ワードやエクセルなんて使えませんし、何か指示されたことをやるだけですよ。そのときに必要なことは教えてもらっていましたが、誰にでもできる簡単な業務です。やることがない日もありましたね。ただ、年の半分以上は試合や合宿などで遠征していたので、あまり会社には行っていませんでした」という状況だった。

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