低迷する日本女子マラソンの"深い闇" わずか2年でやめてしまう女子選手の苦悩

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勤務があるすべてのチームがこうだとは言わないが、遠征の多い陸上部員に責任ある仕事、重要な仕事を任されることはない。会社員でありながら、仕事のスキルは身に付かないのだ。彼女たちは陸上選手として“走る”ことにすべてを注ぎ込むことになるが、意外なことにハードな練習が嫌でやめる人は少ない。まったく別の“重圧”が女子選手たちを苦しめていた。

引退後も夢にでてくる“恐怖”

女子選手を最も悩ませているのが「体重測定」だ。男子チームではほとんどないが、女子チームの多くは、体重をチェックすることで、選手たちを“管理”している。身長などから設定体重が決められており、それよりも多いと、罰金をとるチームもあるという。罰金と監督からのカミナリ。その両方が怖いために、多くの女子選手は、「測定日」に合わせて体重を調整することになる。

元選手は、「測定をクリアするために、ご飯を食べなかったり、サプリメントを飲むための水をどうするか考えたこともありました」と明かす。

体重チェックには比較的苦しまなかったという別の元選手ですら、「引退した今でも体重測定は夢に出てきます。水を飲んじゃったという罪悪感で、深く眠れない日もありますね。常に体重を気にして、生活しないといけないので爆発するのも早い。そういう生活は何年ももたないですよ」と苦笑いする。なかにはお菓子など間食をしていないか、ごみ箱をチェックする指導者もいるというから、選手たちのストレスは半端ではない。

なぜ指導者は選手の体重を管理するのか。それは単純明快。ボディが軽いほうが速く走ることができるからだ。過度な体重制限は貧血や骨の強度にも影響してくるが、それは「鉄剤」でカバーする。サプリメントでの補給は当たり前で、なかには注射で投与するチームもある。あまり明るみに出ることはないが、「鉄剤を打ちすぎて、内臓がボロボロになって走れなくなってしまう選手もいます」と元選手は打ち明けた。

体重でいうと、昨年の1月末に突如、「引退」を発表した新谷仁美も過度な体重制限をしていたように思う。長距離ランナーなのに炭水化物を採らず、体脂肪率は5%台をキープしていた。そんな新谷は2013年のモスクワ世界選手権1万mで5位入賞の快挙を達成した。しかし、その後は右足裏の故障が悪化。実業団に入社した当時、「高橋尚子さんのようにマラソンで活躍したいです!」と目を輝かしていたが、マラソンに本格参戦する前に陸上界を去った。日本長距離界のエースはまだ25歳だった。

女性は体脂肪率が15%を割り込むと、月経不順になり、月経不順や無月経になると骨がもろくなり、疲労骨折などが起きやすくなる。それなのに、指導者は選手の体重を徹底的に管理する。女子ランナーはそんな“矛盾“とも戦わなければいけない。

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