マクドナルドが「人材の多様性」を最重視する理由 J&J出身の日色社長が取り組む「働き方改革」の要諦

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小室淑恵 株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長
小室淑恵(こむろ よしえ)/株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長。1000社以上の企業へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方見直しコンサルティング」の手法に定評がある。私生活では2児の母(撮影:今井康一)

小室:すでに多くの企業で、取得率だけでなく、取得期間についても「1カ月以上は全員取得するように」と推奨するようになりました。

時期としては出生直後を推奨していることが多いです。というのも、なんと今、産後の妻の死因の1位は「自殺」なのです。その原因と言われている「産後うつ」は、産後2週間から1カ月がピークであると医学で証明されています。

産後うつの主な症状は、赤ちゃんを可愛いと思えない、自分をダメな母親だと思う、夫を激しく攻撃してしまうといったものです。回復には「7時間睡眠」や「朝日を浴びて散歩」し、セロトニンを増やすことが重要と言われていますが、夫が毎日仕事に行く中では、翌日の仕事に差し支えると考えてしまい、夜中の2時間おきの授乳を夫に交替してほしいと頼めません。7時間睡眠を取るということが非常に難しいのです。

会議中に夫のスマホには「赤ちゃんと死にます」と妻からメッセージが何度も届く。そこまで追い込まれている状況なのに、会社は休めないと思ってひたすら毎日出勤する夫。そんな状況が日本社会ではずっと続いてきました。たった2週間から1カ月、妻の産後すみやかに夫が休業を取得することで妻と子どもの命を守れるのに。

日色:なるほど。夫の育休の必要性に、そういった理由があることは、全くわかっていませんでした。本気で取り組む必要がありますね。

小室:昭和の子育てと違って、今は大半が核家族です。親にも親戚にも頼れず、地域支援にも期待できないとなると、乳児を抱える妻が頼れるのは夫ただ1人。ところが、男性が育児休業を取得しようとすると「母ちゃんの尻に敷かれているのか」と夫婦のパワーバランスの話だと勘違いしてしまう上司や同僚も多かったのです。

また「私生活を優先するような人は、その後のキャリアにおいて、昇進などを望むべきではない」というレッテルを貼られて、成果を出していても評価を下げられたり、復帰直後に転勤を命じられたりしてきたケースがありました。本人たちはそういった結果になることを恐れて積極的には言い出しませんので、企業側から、産後の妻の状態を「企業主導型 父親学級」として提供するなどのアクションが必要ですね。

子育てを経てマルチタスクを攻略する男たち

日色:ここ数年の気づきとして、コロナ禍で子どもが生まれた男性社員に「育休取らないの?」と尋ねると、「在宅勤務で育児をしているので大丈夫です」と返されるケースが増えたように思います。

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