高学歴化でも「日本の労働生産性が上がらない」謎 オックスフォード大の教授が指摘、海外との差

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これらの大学の卒業生が参入する労働市場でも、求職者はその能力に見合う職をめぐり国境を越えて競争する。学歴やスキルに見合った対価を求めた開かれた競争である。そして雇用主の側は、質の高い人材を引きつけるための賃金や処遇、とくに能力発揮の機会の提供をめぐる競争を繰り広げる。「人材をめぐるグローバルな戦争 the global war for talent(グローバルな人材獲得競争とも訳される)」である。

ある文献ではこうした事態を象徴する言葉として、ブリティッシュ・ペトロリアム社のホームページに掲げた次の表現を引用する。

私たちの目的は、グローバルなメリトクラシー(能力主義)をつくりあげることです。そこでは、あらゆるバックグラウンドをもった人びとが歓迎される。若者、年配者、男性、女性、いかなる人種や国籍をも問わず、身体的な能力によらず、宗教、さらには性的指向や同一性を問わずに。(P. Brown, S. Tannock, 2009,Education, meritocracy and the global war for talent, Journal of Education Policy,Volume 24, p.380) 

能力のみが重要な人材獲得の基準

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人種や国籍、性別といった能力以外の属性は問わない。能力のみが重要な人材獲得の基準だとこのグローバル企業はいう。そして、質の高さをめぐる開かれた人材獲得市場での競争が求人側・求職側の両者で生じれば、優秀な人材=人的資本の獲得は、労働生産性の上昇、したがって企業の収益につながると考えられている。ここでも好循環が想定されている。

この市場での競争で劣位に置かれることは、ここでも市場での交換における交渉力の弱さに結びつく。負のサイクルに陥るということだ。逆に優位であることで、優秀な雇用者を雇い入れ、労働生産性の上昇に応じて企業の生産性も高まり利益を生む。

それが雇用者の処遇(賃金やその他のベネフィット)に反映し、さらなる循環(より良い処遇の提供による市場での交渉力の優位性)が生じる。

しかも、こうしたグローバル企業の多くは、内部昇進にこだわらずに、外部から質の高い人材を引きつけ、それに見合う仕事、賃金、処遇を提供する。人的資本市場をめぐるグローバルに開かれた展開である。

苅谷 剛彦 上智大学特任教授・英オックスフォード大学名誉教授

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かりや・たけひこ

1955年生まれ。米ノースウェスタン大学大学院博士課程修了、博士(社会学)。東京大学大学院教育学研究科助教授、同教授、オックスフォード大学教授を経て2024年10月から現職。著書に『階層化日本と教育危機』『追いついた近代 消えた近代』など。

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