日本の宇宙少年、月面無人探査に挑む 国際レースで日本チーム「HAKUTO」が善戦

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2006年5月、大学院を卒業した袴田は、将来、民間の宇宙開発企業の経営に携わるという目標を立て、日本で外資系コンサルティング会社に入社した。その会社は調達コストの最適化に特化したコンサルティングを展開していて、いずれ宇宙ビジネスに携わる時にその経験が役に立つと考えたからだ。

しかし、当時の日本では民間の宇宙開発など夢のまた夢の話で、ほとんど話題になることもなく、ひとりの宇宙好きとして宇宙関係のイベントに出席したり、自分で主催しているうちに1年、2年と時が経っていった。

そうして帰国から3年が経った2009年の夏、袴田に予想外の方向から転機が訪れた。

参戦のきっかけは結婚式の雑談

JAXA(宇宙航空研究開発機構)に勤める友人の結婚式でたまたま隣席に座った人が、たまたまGLXPに参戦している欧州のチーム「ホワイトレーベルスペース」とつながっていて、式中の雑談をきっかけに袴田をこのレースに導いたのだ。

その人は、ホワイトレーベルスペースが、長らく将来のJAXAの月面ミッションのためにローバーの開発を手掛けてきた、東北大学の吉田和哉教授に協力を要請しており、同時に日本でも資金調達をする計画を立てていると話し、一緒にやりませんか? と袴田に声をかけた。

しかし、大きな話に飛びつくタイプの性格ではない袴田は、この誘いにも乗ろうとは思わなかった。

「すごくでかいプロジェクトだなと思って、ちょっと渋ったんです。日本で資金調達するとしても、数十億円集めなきゃいけない。日本も経済状況はよくなかったし、果たしてお金を出すところがあるだろうかと。自分の能力も考えて、無理だよなって思いました」

この時点で、袴田とGLXPを結ぶ糸が途切れてもおかしくなかった。その糸を離さなかったのは、袴田ではなく、袴田に話を持ち掛けた人物だった。

結婚式から数カ月後、その人物から「年明けにホワイトレーベルスペースのメンバーが来日し、日本で投資家や協力者を募るイベントを開催するから手伝ってほしい」という連絡があり、袴田は「イベントぐらいなら」と快諾。イベントのあと、欧州のメンバー、吉田教授を含めて朝まで飲み明かした。

この時、初めて中核メンバーと腹を割って話をして、袴田をはじめ、その場にいた日本人5人の心が動いた。5人は何度かミーティングを重ねて参戦を決意し、プロジェクトに責任を持つために会社を作ることにした。

とはいえ、プロジェクトのリーダーを務めるのと、会社の代表になるのでは重みが違う。全員が代表に就任することを躊躇(ちゅうちょ)する中で、袴田は悩んだ末に自ら手を挙げた。

=敬称略=(撮影:今井康一)

後編は3月16日に公開予定です

川内 イオ フリーライター

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かわうち いお / Io Kawauchi

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターとして活動開始。2006年夏、バルセロナに移住し、スペインサッカーを中心に各種媒体に寄稿。2010年夏に帰国後は、編集者としてデジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部で勤務。2013年6月より、フリーランスのエディター&ライター&イベントコーディネーターとして活動中。スポーツ、旅、ビジネスの分野で輝く才能やアイデアを追って各地を巡る。

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