日本企業「人に投資しないクセ」が矛盾だらけの訳 人的資本経営という流行を単に入れても効果なし

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この「人基準」の人事・賃金制度を中心に、新卒採用、長期雇用、ならびにそれを支えるしくみとしての職種転換をも含んだジョブ・ローテーション、強い人事部などが、日本的雇用慣行の特徴である。

新卒採用であるため、採用時点では仕事の専門性は期待せず、採用後の順応性や学習能力を期待しての採用となる。

そして採用後、職能資格制度のもと、人事部が主導して、企業内教育プログラムや異なる職種への人事異動を施して、長期間にわたり雇用の維持と職務遂行能力の拡大を図るのである。

これは言い換えれば、長期間にわたる会社主導の「リスキリング」ともいえる。

企業がルールを変えてきた

ところが、近年になって企業が人事制度のルールを変え、そこに働く人々の意識も変わってきた。

企業は、産業構造の転換や企業経営を取り巻く不確実性の増大に対応するために無駄なコストの削減に注力した。

そこで、職能資格制度は維持したまま、「本来のルール」を一部変えて対応したのである。

「本来のルール」では、職能、すなわち職務遂行能力は、一度獲得すれば下がることがない能力という捉え方をしてきた。そのため、1歳年を取ればその分だけ能力が向上するので、年齢給や職能給を自動的に上げたのである。これが定期昇給であり、いわゆる年功賃金はこうして形成されてきたのである。

しかし今では、毎年自動的に賃金が上昇することが経営的に耐えられなくなり、制度としては存在するものの定期昇給を中止または延期する企業も増えてきた。

人事異動の状況も変化している。今日では、多角化よりも資本を集中させる「選択と集中」を志向する企業が多く、職種転換を含む企業内の異動は昔と比べて少なくなってきている。

会社が主導して従業員にさまざまな部署を経験させる代わりに、会社は従業員の「キャリア自立」を打ち出した。これまで会社主導で行ってきた人事異動や教育研修を従業員の手に委ね始めたのである。

次ページ働く人々の意識が変化した
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事