さて大伴家持といえば、恋の歌をさまざまな女性とやり取りしていることでも有名だ。
(なでしこの花を見るたび、彼女の素敵な笑顔を思い出してしまうんだ)
なんというロマンチストな歌! 日本人男性と思えないキザっぷりである。しかしそれもそのはず。当時はまだ奈良時代、のちの平安時代ほど和歌のルールがはっきり決まっていなかった時代だ。
鳥や花といったモチーフを、和歌でどうやって取り入れるのか? そんな和歌の「修行」を頑張っていたのだろう。
上の歌も、恋愛の歌と考えるとロマンチックだけど、一方で「なでしこ」を和歌に詠むとしたら?という勉強の歌でもあったのだろうと想像できる。
ド直球のジャニーズみたいな和歌
あるいは、若かりしころはこんな歌を年上女性につくったりもしている。
(あなたが100歳になっておばあちゃんみたいに舌が出て、腰が曲がっても、嫌いになったりしないよ。もっと恋しくなることはあるかもだけど)
この和歌を受け取ったのは紀女郎。彼女の名誉のために言っておくと、年齢はおそらくまだ30代くらいだったはずだ。しかし年上であることを気にしたのか、「もう年取っちゃったわ」という歌を詠んでいる。
それに対しての家持の返歌が、上のとおりだ。ド直球のラブレター。ジャニーズみたいな和歌を詠むじゃないか、とこの歌を見るたび思う。
ちなみに当時、家持は妻の坂上大嬢(さかのうえのおおいらつめ)を旧都に置いて、単身赴任でやってきたのである。おそらく同じく官職に就く女性だった紀女郎もまた、恭仁へやってきていた。
しかし平城京へ都が戻ってきてから、ふたりの歌のやりとりは万葉集に収録されていない。だからこのふたりのやりとりは、家持の若いころの年上女性との恋愛……くらいに紹介されやすい。
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