しかし、巻ごとに何となくテーマは存在する。そして部立も、巻ごとにはいちおう存在するのである。巻の特徴を説明すると、以下になる。
……「巻17~20:大伴家持歌日誌」。全20巻中、ラスト4巻が、彼の和歌日記なのである。それは家持の和歌数が多くなるはずだ。
仕事の成功だけが正義ではない
万葉集の編纂者も家持ではないか、といわれている。万葉集の生まれた経緯、作者などはいまだはっきりわかっていない。が、家持の歌日記が最後に収録されているってことは、彼が作者だからでは……? と推測されているのである。
家持は、父が大伴旅人(おおとものたびと)、幼いころに母を亡くしたので母代わりだった叔母さんが坂上郎女(さかのうえのいらつめ)。どちらも万葉集に歌が掲載されている、超有名歌人である。つまりは家柄からして、和歌のサラブレッドだった。
が、彼は父と違って、政治的にはかなり不遇な立場に追いやられることが多かった。なぜなら彼の生きた時代は、藤原家と橘家が抗争していた時期にちょうど重なるからだ。
しかし赴任することになった越中で歌を200首以上作ったり、または難波で防人たちと交流したり、それがもとになって防人歌が万葉集に収録されることになったり……和歌での成果は存分にあった。万葉集がこれだけ豊富な、充実した歌集になったのも彼の功績がかなり大きい。そしてそれは彼の仕事が、中央政権で成功しなかったから、という側面が大いにある。
万葉集は、家持の仕事がうまくいっていたら、今みたいな名著にならなかったのかもしれない……。そんなふうに思うと、仕事の成功だけが正義ではないな、なんてことも思ってしまう。
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