「がんを告知された人」の苦痛を取り除く緩和ケア 「医療用麻薬」は“末期"に限らず使用できる

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がんによる痛み以外の身体的苦痛は呼吸困難や吐き気が代表的であり、これらは少しの工夫で和らげることができます。例えば呼吸の苦しさは室温を下げること、窓を開けたり扇風機をつけたりして空気の流れを良くすることで軽減できます。吐き気に対しては衣服をゆるめ、またこまめな口腔ケアを行うほか、少量の冷水や氷によって口腔内の潤いを保つことも効果的です。ストレスも吐き気につながる場合があるため、自分の好きな音楽や香りによるリラックス方法もあります。香りについては柔軟剤や香水、生花の強い匂いはかえって吐き気を強めるため、本人の感覚を大切にし、家族や同室する方は普段以上に気をつけましょう。

精神的ケアも緩和ケアの一環

精神的なつらさは長い闘病生活によるものもありますが、実はがんの診断直後に自殺リスクが高いという統計があります。人間は悪い知らせを受けた時、否認や怒り、うつ状態を経て徐々にそのショックを受容する(キューブラー=ロスの死の受容プロセス)ようになっていますが、受容に至る前に行動を起こしてしまうことが原因とされています。

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とくに独り暮らしの方、もともと神経質や抑うつ傾向の方、また若い世代の方は悪い知らせに対するショックが大きいとされています。どのような形でもよいため自分の気持ちを吐き出せる場を作りましょう。

がんに対する不安から不眠や倦怠感(だるさ)を訴える方はとても多くいらっしゃいます。抗精神病薬で一時的に気持ちを落ち着かせることはまったく特別なことではなく、自分だけがつらいと抱え込まず、精神科に早めに相談することも大切です。

がんは手術で切除できなかった場合、薬物療法や放射線療法で長い期間向き合わなければならない疾患です。しかしだからこそ、緩和ケアによって少しでも日々の苦痛が取り除かれ、よりよい予後となればと願っています。

上原 桃子 医師・産業医

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うえはら ももこ / Momoko Uehara

横浜市立大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構理事。身体とこころの健康、未病の活動に尽力し、健康経営に関する医療系書籍の編集にも関わっている。医師と患者のコミュニケーションを医療関係者、患者双方の視点から見つめ直すことを課題とし、とくに働く女性のライフスタイルについて提案・貢献することを目指している。

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