日本人が知らない現代韓国に根づく「ある文化」 駅のホームからプレゼントまで――驚きの背景

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本書は、韓国の名詩を集めたものではない。〈癒やし〉と〈気づき〉を底流に据えた古今東西の詩を精選したコンピレーションである。この点において、本書は、韓国文学の日常的読者はもとより、そうでない方々にも広く開かれた、詩の世界一般への門扉と言ってよい。

世界中の名詩が集結

ヘンリー・デイヴィッド・ソロー、ラビンドラナート・タゴール、ヘルマン・ヘッセ、オクタビオ・パス、ヴィスワヴァ・シンボルスカ、メアリー・オリバーなど、その名を聞くだけで血沸き肉躍るような有名詩人の佳品から、寡聞にして初見の言詞、さらにはネイティブ・アメリカンの祈祷、作者未詳の詩まで、種々の詩群を収める。石川啄木や吉野弘、イ・ムンジェやリュ・シファなど、日本や韓国の詩人の作品も掲載しており、都合77篇の詩からなっている。

編者は、瞑想などの精神世界をも知悉(ちしつ)する詩人として著聞(ちょぶん)したリュ・シファである。慶熙(キョンヒ)大学校国語国文学科に学び、1980年、『韓国日報』新春文藝詩部門に当選、1980年から1982年にかけて『詩運動』の同人としてあまたの詩を紡いだが、その後、10年近く創作活動を中断、南アジアの国々を跋渉(ばっしょう)しつつ、瞑想関連書籍の翻訳に注力した、類稀(たぐいまれ)なる経歴の文筆家である。そして、1991年には初の詩集『君がそばにいても私は君が恋しい』を発表、爾来(じらい)、卓絶した詩集や散文集、翻訳書を世に問うている。アメリカ、インド、韓国のあいだを移動しながら展開されるリュ・シファの執筆活動には、常に渉覧(しょうらん)と思索の軌跡が触知される。

特に本書は、人生に煩悶(はんもん)する読者に対して、〈癒やし=ヒーリング〉をもたらすような詩を選択的に差し出し、「本当の人生とは何か」「真実とは何か」を反復的に思念させる。多少なりともリュ・シファの著作群と戯れてきた筆者(辻野)としては、リュ・シファらしい撰詩に首肯しつつ、そこから浮かび上がる幽邃(ゆうすい)なる風景に深く感じ入ることとなった。さらに、詩の声に心耳を澄ませ、一篇一篇を齝(にれか)むことで、結ぼれた心が解け、いささか疲弊気味の筆者自身もおもむろに平癒されていくような気がした。

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