世界の「経済政策バブル」が弾けようとしている 「八方美人」という方針をとり続ける日本の末路

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日本にあるのは「八方美人」という方針だけだ。すべての人にいい顔をする。「彼が、彼女がかわいそうだ」と批判されれば、それにすべて対応しようとする(そのふりをする)。

リスクに目をつむり、かえって安全性が低下する日本

安全では足りず、全員が安心するように努力しているふりをする(なぜなら、全員が安心することはないから。思考停止して、リスクに目をつぶるしかない。そして、かえって安全性は低下する。0.01%を守ろうとして、90%いや100%を失うリスクを抱え込む)。万が一のことがあったらどうする、という懸念、指摘にも全力で対応するふりをする。これでは収拾がつかない。

過去、政権交代しても、結局、八方美人だったので、ほとんど何も整理されなかった。ただ、政策はただただ肥大化し、効率性がさらに低下した。それに代わった「アベノミクス」は、リフレ政策という単なる膨張政策で、すべてをごまかし、目先の景気をよくし、株価を上げて、その場を取りつくろった。

しかし、経済界は、自分の目先の負担は増えず、株価が上がり、利益が名目上円建てで増えたから、不思議なことに(思考停止していたのか?)文句は言わなかった。

2020年春、新型コロナウイルス(COVID-19)が欧米に広まった当初は、まだ日本国内では、感染者数の広がりはそれほど深刻でなかった。なのに、異常な行動制限と異常な自発的(かつ積極的な)自粛により、経済は縮小した。困窮した一部の人を助けるために、彼らだけに金を配る手段がないと言い出して、国民全員に10万円を配った。10万円もらえるから、誰も(思考停止だから、将来のことは考えず)文句は言わなかった。

これらの経済政策とは何なんだろうか。ぜいたく品である。明確なターゲットを定め、仮に政治的な下心からの政策であったとしても、ターゲットが定まっていれば、一定の必要に対応した政策、「必需品」としての政策となったはずだ。そうではなく、全員の支持を得るために、八方美人政策、ぜいたく品的な支持率、無風で確実に選挙に勝つ戦略をとった。いかなる決断、勝負も避けた。政治決断という政治の必需品をないがしろにし、とにかく支持率で過半数をとって、リスクなく勝とうする、ぜいたくな戦略を選んだ。

英国のリズ・トラス首相が「growth,growth,growth(成長、成長、成長)」と叫んだ党の集会での演説を滑稽に思う資格は、日本のわれわれにはない。生活困難者対策、幼児児童のリスクを放置し、児童相談所も保健所もほとんど何の改革もせず、「予算もないし、人員もいない」と言いわけをして放置してきた。「労働市場改革」「一億総活躍社会」「女性なんとか」などと言いながら、最低賃金の上昇だけを行い、非正規というまるで違法であるかのような呼び名を放置し続けてきた(無認可託児所も、同じである)。

正規、非正規の差別も区別もなくし、同一労働同一賃金、すべての労働者を平等に扱い、社会保障も同じ水準を担保することを一切行わずに、労働力不足をなげく経営者のために、海外労働者を何とか入手しようと議論している。

議論が広がりすぎるので、最後にひとことで暫定的な結論を述べると、重要な社会政策というものに真剣に取り組まず、経済政策で景気をよくして、社会問題も将来不安も糊塗してごまかしてきたのだ。

それを国民は、自ら思考停止して受け入れて(多くの場合、歓迎して)きたのだ。社会政策は「必需品」であり、社会問題をごまかす経済政策は、「ぜいたく品」である。そして日本の政治は、新しい「ぜいたく品」を競って次々と編み出し、ぜいたく品の上塗りを続け、政府債務を膨張させ、中央銀行の破綻リスクを積み上げてきたのだ。

そして、まもなく、この経済政策バブルは、金融市場、経済のバブルとともに弾けるだろう(ここで本編は終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースや競馬論を語るコーナーです。あらかじめご了承ください)。

次ページさて競馬。惨敗の凱旋門賞。小幡流「敗因分析と対策」とは?
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