世界の「経済政策バブル」が弾けようとしている 「八方美人」という方針をとり続ける日本の末路

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企業は前述のような「イノベーション」競争に邁進していたから、皆が競って新しい流行のぜいたく品、あわよくば“麻薬”を生み出そうとした。

その結果、誰もが必要とする必需品の生産は手薄になった。食料であれば、主食が不足し飢える人々が世界中にあふれていても、高級牛肉を生み出すために飼料作物を大量に生産した。

歴史の教科書で習った自給自足から商品作物への生産シフトが、あらゆる場面で起きた。住居は、富裕層向けの高級住宅が土地、不動産価格をつり上げ、さらにそれが投資需要を呼び込み、世界中の大都市の不動産価格は高騰し、低所得者は賃労働を得るために大都市に流れ込んだが、住居は得られない状況となり、この苦境が多くの人々に広がっていった。

成熟国では「単純労働者という必需品」が不足

同様に、健全な精神と肉体を得るための必需品である「普通の良好な自然環境」は失われ、大都市での精神病は増え続けた。この結果、衣食住そして健康という必需品がすべて不足した。「衣」だけは大量生産に成功して余ったが、それを利益に変えるため、ファッション(流行)やブランドという「ぜいたく」なものにすり替えるか、使い捨てとして大量消費させることで、産業としては必需産業から程遠い存在となった。

この問題に、有識者、とりわけ経済政策担当有識者は気づかなかった(目をつぶってきた)。なぜなら、必需品は世界経済全体では不足してきたが、それは政治的・言論的影響力のある先進国の中間所得者層とは無関係だったからだ。

彼らは、むしろ新しいぜいたく品を消費し、同時に働き手として、それを生産して儲けることだけに関心があったからだ。こうしたぜいたく品消費、生産拡大を、どれだけほかの国よりうまくやるか、大規模に成功させるか、という問題に終始していたからである。ぜいたく品の過剰生産による必需品の絶対的な不足は、経済の問題ではなく、途上国の一部の問題であるとしか認識されてこなかった。

しかし、この問題は徐々に世界のあらゆるところで顕在化してきた。まずは、必需品たる単純労働者不足である。これは、ある意味の必需品である子孫の繁栄をないがしろにして、ぜいたく品といえる自分たちの豊かな消費生活を享受することを優先させた結果とも解釈できる。

そこで、ぜいたく品に手が回らない後進国から移民を受け入れることでごまかしてきたが、その移民の奪い合いと同時に、さらなるぜいたく品消費、ヘイト、移民差別といった問題が起き、単純労働者という必需品不足が世界中の成熟国で明らかになってきた。

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