日本の武器輸出戦略には致命的な弱点がある 国際見本市で中小企業を積極支援するべき

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自国企業のブースを訪れて激励する南アフリカ国防相(右女性)と参謀総長(中央)

だが安倍政権にはそのような経験を持つブレーンがいないようだ。昨年6月にパリで行われた見本市「ユーロサトリ」には日本パビリオンが設けられ、日本企業が13社参加したが政府の補助は1円も支払われていなかった。本年9月にはロンドンで軍事、セキュティの見本市、DSEIで日本パビリオンに防衛省が出展するが、これまた民間主導のパビリオンであり、防衛省がそれに乗るというスタイルだ。

武器輸出を促進したいのであれば、大物狙いよりも見本市で政府の予算でナショナル・パビリオンを出展し、中小企業のバックアップを行うべきだ。

また軍事見本市はホスト国だけではなく、周辺国や世界中の国防省や軍隊、治安関係機関などから上は閣僚クラスの政治家や将官から外交官、将校、下士官までが集まってくる。また情報関係者も然りである。

見本市は信頼熟成の場にもなる

先月末にUAEの首都アブダビで行なわれた世界最大規模のIDEXがその好例であり、軍人などを対象としたコンファレンスやレセプションも行なわれる。つまり単なる売買の場ではなく、当局の関係者にとっても信頼熟成や情報収集の場であるのだ。例えばIDEXやヨルダンで行なわれるSOFEXに毎回デリゲーションを派遣し、現地の軍隊や国防省高官らと信頼熟成を深めていれば、先に起こったアルジェリアのテロ事件や、ISによる邦人人質時殺害事件においてもっとまともな情報収集ができ、対応も違っていたはずだ。

中国は極めて大きなデリゲーションを派遣

また当然ながらこれらの見本市では世界の最先端の装備や技術が展示されており、技術開発の情報収集を行う、かっこうの場となっている。

だがこれまで防衛省はこの種の見本市への視察に極めて消極的だった。

2008年フランスで見本市ユーロサトリなどを視察、帰国後約40日後に退職した技本の川合正俊陸将(当時)

防衛省、各幕僚監部、技術研究本部もほとんど視察に訪れなかった。参加する場合にも、情報収集という意識がはなはだ低かった。2008年の技術研究本部の視察予算は、わずか92万円、筆者の海外取材費よりも少ない額だ。この金額で6名が派遣されていた。

それは相手国からの顎足付きだからできたことだ。では、この視察はどう役に立ったのか。2008年にユーロサトリを訪れた技術官の河合正俊陸将(当時)は視察後40日ほどで退職し、防衛とは縁もゆかりもない企業に再就職していた。これでは、海外視察を偉い人の卒業旅行として使っていたとみられても仕方がないだろう。このような発想では、まともな視察などできるはずがない(当時、筆者はこの事実を記事化した。その影響もあったのか、今では予算は数千万円に増えている。若手職員の派遣も増えている)。

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