相続税・贈与税の「一体化」改正はどこへ行く? 政府議論が始動、注目集まる贈与税の基礎控除

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資産格差の是正についてはどうか。結論から言えば、資産格差の是正を強化するためには、資産を特に多く持つ人への負担増が必要となる可能性が高いが、相続税・贈与税の増税に動く兆しは見られない。

相続税は、年間の死亡者のうち8%程度しか課税されていない。しかも、高齢世代に資産が偏在しているとはいえ、資産をほとんど持たない高齢者も最近増えている。だから、資産を特に多く持つ人にさらに税を負担してもらわなければ、資産格差は是正できない。

そのうえ、現行の相続税・贈与税で縮小できる資産格差はかなり限定的という見方がある。例えば、子が第三者から住居を借りると家賃を払わなければならないが、親の持ち家に子が無償で住むと、節約できた家賃分は親から子への実質的な贈与ともいえる。しかし、課税上弊害がないと認められるならば、そこには贈与税は課されないこととなっている。

そうした形で、暗黙の裡に親から子へと資産が移転されても課税はできないから、資産格差の固定化は防げない。

前掲した政府税調での答申では、資産再分配機能の適切な確保を掲げた。その答申には、「相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、格差の固定化を防止しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制を構築する方向で、検討を進める必要がある」と明記した。

二の足を踏む政治、国民的議論が必要だ

しかし、相続税・贈与税の税収は、消費税率の1%分の税収しかなく、仮に資産を特に多く持つ人に負担増を求めても増える税収は少ないとみられる。

相続税・贈与税で縮小できる資産格差は限定的だとしても、だからといって資産格差の固定化を防止することは必要だ。資産格差は、どの程度なら許容できるのか、どう是正すべきなのか。政治は二の足を踏んでいる場合ではない。国民的な議論が欠かせない。

※本稿において、意見にわたる部分は、筆者の私見であり、政府税制調査会の見解を代表するものではない。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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