日本マイクロソフト"超スムーズ人事"の裏側 外資ITらしからぬ、きれいなバトンタッチ
「日本に根ざした企業である限り、たすきをつなぐがごとくに、スムーズに社長を交代し、顧客やパートナーに迷惑をかけないことが大きな使命だと考えた。外資系企業のなかには、突然CEOがいなくなったり、空席のまま経営を続けるという例が散見される。それを反面教師にした」との会見でのコメントには、記者席からは笑いが漏れた。
確かに、昨年から今年にかけて、IT業界では社長交代が相次いでいるが、必ずしもスムーズではない。日本IBMは、今年1月にマーティン・イェッター氏から、ポール・与那嶺氏へと交代しているが、11~12月の2カ月間、イェッター氏が引き継ぎのために、米国本社へと実質的に異動。社長代行を下野雅承副社長が務め、1月になってから新社長を発表し、バトンを引き継いだ経緯がある。社内からの社長選出にも関わらず、珍しいバトンの渡し方に、業界内では戸惑いがあったのも事実だ。
また、日本ヒューレット・パッカードでは、昨年3月に、小出伸一氏が社長を辞任し、セールスフォース・ドットコム日本法人会長になったことで、同社社長に、米ヒューレット・パッカードのジム・メリットバイスプレジデントが暫定的に就任。今年1月に吉田仁志氏が新社長として就任するまでの約9カ月間に渡り、実質的に社長が不在となる期間があった。この間、メリット氏が来日したのは数回だけだ。パートナー企業からの不信感が高まっていたことは拭えない。
また、SAPジャパンやEMCジャパンのように、いきなりの社長交代の発表で、新社長だけが会見に臨むというケースもみられた。突然の解任劇では、新社長だけが出席する会見になってしまうのはやむを得ないのだろうが、これも、顧客やパートナー企業にとっては不安材料として映ってしまう。
こうした外資系企業の相次ぐ不可思議な社長交代劇を目の当たりにしていただけに、日本マイクロソフトとしてはスムーズな形で社長交代を成し遂げたいという気持ちもあっただろう。
初めてのスムーズなバトンタッチ
実は、当の樋口社長自身も、日本ヒューレット・パッカードの社長退任時には、ダイエー社長へと電撃移籍。ダイエーでは、産業再生機構による再生が進むなか、わずか1年半で社長を退任。過去2回は後継者を育てる間がなかったともいえる。58歳を迎えた3回目にして、初めてしっかりと後継者へとバトンを渡すことができたともいえるのだ。
日本マイクロソフトでは、社長の役割として、上司である米マイクロソフト インターナショナルのジャンフィリップ クルトワ プレジデントへ提出する年次レポートのなかで、必ず次期社長候補を示すことになっており、そのなかでは、常に平野氏の名前はあがっていたようだ。その点でも、今回の平野氏へのバトンタッチは、既定路線のものといってもいいだろう。
クルトワ氏も、「これは昨夜決めた話ではなく、樋口との数年間の話し合いを経て決めてきたことである」と異口同音に語る。
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