ジュネーブでの障害者権利委員へのロビー活動は、教育に関しては健心さんを派遣した全国連のほか、公教育計画学会(元井一郎会長)、インクルーシブ教育情報室(一木玲子室長)、TOYONAKAWAKATSUDO(上田哲郎代表)の4団体が、「文科省の『インクルーシブ教育システム』の定義は、障害者権利条約の規定と異なっている。障害者権利条約におけるインクルーシブ教育の定義は医学モデルでなく、人権モデルである。日本のすべての教育者は、障害者権利条約で規定されるインクルーシブ教育を正しく理解する研修を受けること(*1)」を要望した。
文科省が構築する「インクルーシブ教育システム」では、教育で必要なニーズは生徒によって異なり、的確に指導を提供するためには学びの場を分けたほうがいいとされている。
このため、障害のある子どもは「地域の小中学校の通常学級」「通常学級に籍を置いて、科目によっては個別支援を受ける通級指導教室を利用」「地域の小中学校の特別支援学級」「特別支援教育を受けるための特別支援学校」のうち、どこで学ぶかを教育委員会と相談することになっている。本人と保護者の意見は最大限尊重されることになっているが、最終的には教育委員会が決定する。
また、文科省は教育ニーズは変わることも想定されるため、柔軟に連続性のある形で運用することを現場に求める。さらに、障害者権利条約に基づき、同じ場でともに学ぶことも追求するため、それぞれの学級の生徒同士が交流するための授業も取り入れている。
障害を理由とする区別は差別
しかし、これは障害の有無や能力の高低で学びの場を分ける「分離教育」の考え方に基づく。とくに特別支援教育は、障害がある子どもには個別支援が必要とする「医学モデル」となっている。
一方、障害者権利条約は、人間は誰でも尊厳と自由と平等で、市民的、政治的、経済的、社会的、文化的にあらゆる権利を有しているという「人権モデル」を基盤とする。このため、原則的に「障害を理由とするあらゆる区別は差別」として禁止されている。つまり、障害者権利条約では、前述の分離教育は差別であり、排除・制限に当たる。
同条約の手引きには、「インクルーシブ教育とは、障害の有無を問わず、あらゆる生徒が同じ教室で学ぶこと」とされ、「誰もが一緒に学びながら、個別のニーズを満たすことができる教育制度の構築」が求められている。そして、重要な点として「教育制度は個人のニーズに合わせるべきであり、個人を教育制度に合わせることではない」とも規定されている(*2)。
障害者権利委員会は総括所見で、日本政府に対し「特別支援教育の廃止」「『特別支援学級の生徒が半分以上の時間を普通学級で過ごすべきではない』とする文科省通知の撤回」など、6項目をほかのテーマより強い、喫緊の課題として勧告した。条約締約国はその内容を順守する義務がある。
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