「あと半年水が引かない」大洪水パキスタンの今 凶暴化するモンスーン、凶暴化する被害の現実
パキスタン南部のシンド州でもとくに被害が深刻なダードゥ地域では、洪水で約300の村が完全に水没。ほかの村の多くも水に囲まれ孤立している。州全体では、現時点で約10万3600平方キロメートルの土地が水没していると当局者は言う。
それまで綿花畑や小麦畑だった場所は今では腐敗した水に覆われ、木製のボートがエンジン音を立てながら行き来するようになっている。被害を免れた町と洪水で孤立した村を結ぶ交通手段となっているのだ。水面のあちこちには、片足だけのサンダルや薬のボトル、水につかった小学校の窓から流れ出した青色の教科書が浮いている。
腐敗した水から大量の蚊が発生
水面から突き出した木のまわりには大量の蚊。水面すれすれに垂れ下がった送電線は見るからに危険だ。
何万という人々が家を失って近くの町に避難し、学校、公共施設、道端や水路の土手で暮らすことを余儀なくされている。避難に使われているテントは、洪水が迫る中で何とか持ち出した防水シートやロープベッドといったあり合わせの資材で組み立てられたものだ。
幸運にも完全には水没しなかった数少ない村の住民の多くは、家から出られない状況が続いている。水に取り囲まれて身動きがとれないのだ。パキスタン当局は、孤立した村を離れるよう住民に強く促している。
何千という人々が村にとどまると、ただでさえ逼迫している救助活動がさらに圧迫されたり、食料不足が広がったり、感染症の流行で公衆衛生上の危機に発展したりするおそれがあると当局は警告する。
それでも住民が村にとどまるのには理由があると、当局者らは言う。洪水を免れた家畜、冷蔵庫、トタン屋根といった財産が盗まれないように守る必要があるというわけだ。ボートを借りて家族と持ち物を移動させるには費用がかかりすぎるし、避難所のテント暮らしにはとても耐えられないと感じる人も多い。