ロシア住民投票で急激に高まる「核使用」の現実味 もはやプーチン大統領による脅しだと侮れない

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当時の戦略目標はもう1つあり、それがドンバスの解放であるが、それもロシアへの編入ではなく独立であった。3月には停戦交渉が大詰めまでいったが、結局ウクライナ側が引き返してしまった。

ロシア側は、この交渉決裂はアメリカの介入があったものだと考えている。つまり、ドンバスの解放・独立、ウクライナの非武装中立ですぐに決着できるはずが、ここまで長期化し、さらに一般国民の動員まで踏み込ませたのは西側のせいだと認識しているのだ。

アメリカによる武器供給が長期化を招いた?

アメリカは、ウクライナへの兵器の供与でロシア軍を撃退し、この紛争を終結させることができると考えたのか。ロシア相手にそんなに簡単にいくはずがないことはアメリカもよく理解しているはずだ。

とすれば、兵器の供与はウクライナの攻撃能力を高め、紛争を長引かせる結果をもたらすほかない。そういう意味では、紛争をエスカレートさせ、ロシアが国民の動員にまで進む理由を与えたのも、ウクライナを助けようとしたアメリカの善意だったというのは皮肉なことだ。

いずれにせよ、一般国民が戦闘に参加するようになれば、世論がこれまで以上に過熱することは必定だ。そうなれば、3月の停戦交渉の際にロシア軍がキエフから撤退したように、政府主導での戦略的な撤退といった駆け引きが困難になり、無定見な力と力のぶつかり合いで行くところまで行ってしまう。国と国が国民を総動員して戦うというのはそういうことなのである。

亀山 陽司 著述家、元外交官

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かめやま ようじ / Yoji Kameyama

1980年生まれ。2004年、東京大学教養学部基礎科学科卒業。2006年、東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻修了。外務省入省後ロシア課に勤務し、ユジノサハリンスク総領事館(2009~2011年)、在ロシア日本大使館(2011~2014年)、ロシア課(2014~2017年)など、約10年間ロシア外交に携わる。2020年に退職し、現在は森林業のかたわら執筆活動に従事する。北海道在住。近著に『地政学と歴史で読み解くロシアの行動原理』(PHP新書)、『ロシアの眼から見た日本』(NHK出版新書)

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