「音量の上限を設定でき、聴覚を保護することができる機器も増えています。イヤホン難聴を防ぐなら、そうした機器を選んで80dB以下に音量制限をしてから使うことが大切です。日ごろ音楽を聴くときにはイヤホンをしたままでも会話が聞き取れるくらいの音量(65dB程度)なら安全でしょう」(菅原医師)
イヤホン難聴を防ぐために、長時間の聴取を避け、1時間に1回、10分の休憩をとることを日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は推奨している。
完全に回復させるのは不可能
イヤホン難聴で問題となるのは、一度壊れてしまった有毛細胞や聴毛は再生せず、元には戻らないという点だ。聴力の低下を放置してしまうと、失われた聴力を完全に回復させることはほとんど不可能になってしまう。
ライブ会場などで短時間で生じた難聴であれば、早めに病院を受診できれば、耳の安静やステロイド薬での治療によってある程度、回復は可能だ。治療が早いほど聴力も回復する見込みが高くなる。
ただし、イヤホン難聴の場合は治療が難しく、かつ、少しずつ進行するため、聴力の低下に自分で気づきにくい。聞こえが悪くなりはじめると、どんな症状がみられるのだろうか。
「聴力の低下は高音域からはじまります。年齢が若いほど可聴域は広く、高い音が聞こえやすいので、10~20代の若い人であれば、それまで聞こえていたモスキート音などがまず聞こえにくくなるでしょう」(菅原医師)
「普段聞いている音が変わって聞こえる」「耳鳴りがする」などの自覚症状もあれば、すぐに耳鼻科にかかることが大切だ。気軽に聴力検査を受けるだけでもいいだろう。なかなか病院に行けないという人の場合には、自分で聴覚を診断できるスマートフォンなど向け無料アプリ『hearWHO』などもある。
「こうしたアプリは自分で気軽に聞こえをチェックできる利点はありますが、あくまで簡易的なチェック。使っている端末によって出てくる音圧も異なりますから、病院での検査と違って、検査の信頼性は十分担保されているとは言えません。ただ、アプリのチェックなどで聞こえにくい音がある場合に受診のきっかけにはなる。なにか聞こえに不安などが出てきたら、ぜひ早めに耳鼻科医を受診してください」(菅原医師)
(取材・文/石川美香子)
菅原一真医師
奈良県出身。1996年に山口大学医学部を卒業、同大学医学部耳鼻咽喉科入局。2002年に山口大学大学院医学研究科修了。2003年よりアメリカワシントン大学医学部耳鼻咽喉科客員研究員などを経て、2017年より現職。専門は中耳手術、人工内耳手術、難聴・感染症・アレルギー疾患の薬物治療、内耳保護機構の研究。
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