聴毛は非常に繊細なため、大きな音に長時間さらされると抜け落ちたり、傷ついたりしまう。そうなると音を感じ取りにくくなり、難聴を引き起こしてしまうのだ。イヤホンなどで日常的に長時間大きな音を聴き続けていると、聴毛や有毛細胞が少しずつ壊れて、聴力が低下する。
80dBで1週間40時間以上
「WHOでは、80dB(デシベル)で1週間当たり40時間以上を難聴リスクとしています。1日当たりに換算すると約5時間半。これはあくまで目安であり、5時間半以内だから絶対大丈夫、というわけではありません。耳への負担を考慮すれば、適度な音量で一定時間内を守ることが大切です」(菅原医師)
ちなみに80dBとは、走行中の電車内や飛行中の飛行機内の騒音と同程度だ。 子どもは大人よりもさらに低い75dBが安全とされている。工事現場など、騒音性の職場の難聴予防のために厚生労働省が策定した「騒音障害防止のためのガイドライン」基準でも、85dBで1週間当たり40時間以内に設定されている。
重要なのは、鼓膜面上にかかる音圧と聴取時間だという。
大きな音になればなるほど音圧が高まり、聴く時間が短くても難聴になるリスクは高くなる。たとえば音量がオートバイの走行音と同程度の90dBになると、1週間当たりの許容時間は4時間だ。それ以上になると聴毛の損傷が始まる。
比較的小さな音でも聞く時間が長ければリスクとなる。長期間にわたり騒音にさらされ続けると、有毛細胞が徐々に障害を受け、将来的に難聴を引き起こす可能性が高まる。
コロナ禍以降、オンライン会議が増え、イヤホンを一日中、耳につけっぱなし、という人も多いかもしれない。そうした場合は大丈夫だろうか。
「オンライン会議でイヤホンを使うぐらいでは、音量に気をつけていれば難聴になることはまずありません。話し言葉は音が途切れますが、音楽はずっと音が鳴り続けてしまう。音楽聴取はそれだけ耳への負担も大きくなります」(菅原医師)
注意すべきは、イヤホンを耳につけて音楽を聴きながら寝てしてしまうクセがある人だという。
「イヤホンを耳につけたまま寝てしまうと、音量は小さくとも長時間、音を聞き続けることになる。習慣的に積み重なれば耳への負担はかなり大きくなりますので、要注意です」(菅原医師)
イヤホン難聴の予防には、イヤホンの選び方も重要だろう。
注目されているのは、ノイズキャンセリング機能付きイヤホンだ。周囲が騒がしい環境でのイヤホン聴取でも、周囲の騒音をカットできるため、音量を上げすぎずに音を楽しむことができ、耳への負担は多少軽減される。ただし、そもそもの音量が高ければ耳へのリスクは高いままだ。
より確実なイヤホン難聴予防として菅原医師が勧めるのは、「大きすぎる音が出ないように音量の出力制限装置がついている再生機器」を使うこと。iPhoneであれば、現在はデフォルト設定として音量制限が可能になっている。
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