「ボケでけっこうです。こんな旅行ちっとも楽しくない。私、帰るっ」
持ってきた荷物を鷲掴みし、テーブルの上に置いてあった携帯を持ち、ホテルの前に停車していたタクシーに乗り込んだ。そこから駅に行き、1人電車で帰宅したという。電車の中で彼とは別れる決心がついた。
別れを切り出すとその後も追ってきたが、いっさい取り合わず無視した。
「通勤には少し不便だったんですが、少しの間実家に身を寄せました。これまでのことを母に話すと、『そうね。そんな男性はやめたほうがいいわね。そんな人と結婚したら、あなたが苦労するわ』と、同調してくれました」
そして、きみえは続けた。「経歴とか仕事は立派だったけれど、男としての自信がなかったんだと思います。背とか容姿がコンプレックスの塊だったから、威張れる私の前ではモラハラ男になっていた。付き合う男性の本質を見なきゃいけないなという勉強になりました」。
優しいけれど、経済観念ゼロの男
彼と別れてから、友達もやっていたという婚活アプリに登録をした。登録してみると、りゅうへいと同じような経歴の人たちが、サイトには大勢いた。見た目もイケメンで背も高い。そして、自分でも驚くほど男性から“いいね”が来た。
「ただアプリをやっていた友達から、『エッチだけが目的の“ヤリモク”もいるし、経歴や年収がウソの人もいるから気をつけたほうがいいよ』と言われていたので、そこは自分でも注意しなきゃと思っていました」
そんななかで、5人の男性と会った。
「そのうちの3人は、会ったその日にホテルに誘ってきました。1人すごく怖かったのは、新宿で食事をして、『駅に行こうか』と言ったのに、駅とは反対の方向に歩き出したんですね。『駅はこっちですよ』と言ったら、いきなり腕をばガバッてつかまれて。怖くなって振り解いて、走って逃げました。夜だったので人もたくさんいたし、追って来なかったのが幸いでしたけど」
そんななかで、初めて紳士的な対応をするしょうじ(30歳、仮名)に出会った。都内のメーカーに勤めていていたのだが、経歴も年収もごく普通。デートで食事をしても、いつも割り勘だったが、りゅうへいのように威張ったり、束縛したりするようなところがなかった。顔色をうかがったりしなくてよかったので、一緒にいてラクだった。
自然と結婚の話も出てくるようになったのだが、あるとき、しょうじには、貯金がほとんどないことがわかった。
「年収もアプリに入れていた金額よりも少なくて、私のほうが稼いでいました。ただ、前回の失敗でどんなに経歴がよくて年収が高くても、モラハラ男とは結婚したくない。“結婚は2人で力を合わせていくものだ”と、自分に言い聞かせたんです」
そう思っていたのだが、ある日、彼が事後承諾で車を購入。頭金をなけなしの貯金から払ったことがわかった。
「『なんで車を買ったの?』聞いたら、『結婚したら、車も必要でしょ』と言うんです。貯金はもうほぼ底をついているだろうに、結婚話を当然のようにしてくる。完璧に私のお金をあてにしていたようでした」
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