「男女の関係になってからというもの、とにかく束縛がキツくなりました。会社からの帰り時間も毎回チェックしてくるし、LINEが来て、その返信が遅いと『何してたの? なんでこんなに返信が遅いの?』と文句を言うんですね」
あるとき、一人暮らしのきみえの家にりゅうへいが遊びにやってくることになり、手料理を振る舞ったのだが、喜ぶどころかダメ出しをされた。
「盛り付けにこだわったほうがいいな。あと、手の込んだ料理も勉強してね。結婚して、俺の友達が遊びにきたときにこんな田舎料理を出したら恥ずかしいから」
家庭料理でもてなそうと思っていたのだが、りゅうへいは、ワンランク上の料理を望んでいたようだった。
「あと、デートに着ていった服を『その服ダサいな』とか、『もっとメイクもうまくなれよ』とか、細かいことにまでうるさく口を出してきたんです」
彼を逃したら結婚できない…
だんだんと違和感を覚えるようになったが、りゅうへいを逃したらもうこんなに条件のいい男性には巡り会えない気がした。きみえは20代のうちに、とにかく“結婚”がしたかった。結局、2年間付き合ってしまった。
別れを決めたのは、1泊2日の旅行に出かけたことがきっかけになった。
「それまでにも何度か旅行に行ったことがあったんですが、旅先で些細なことでキレるんです。そのときは仕事で何かトラブルがあったようで、待ち合わせの場所で、私が車に乗り込んだときから不機嫌でした。ホテルに着くと、パソコンを立ち上げて仕事の資料をテーブルに広げて、仕事をし出しました。私は、恐る恐る『ここで仕事するの? どこにも行かないの?』と聞いてみました」
いつからかりゅうへいの顔色を伺いながら、一緒にいるようになっていた。すると、不機嫌そうな声で、彼が言った。
「お前みたいにお気楽な仕事をしてるわけじゃないんだよ。俺はお前の何倍も稼いでいるんだ。少し集中させてくれよ」
せっかく楽しみにしていた旅行だったのに、この扱いはなんだろう。このままは部屋にいたら泣いてしまいそうだった。泣いたらさらに怒るだろう。彼がイラだっているときに、気分を害するようなことを言ったりやったりすると、怒りが増幅していく。
「仕事の邪魔しちゃいけないから、外を散歩してくるね」
そう言って、部屋を出た。部屋の扉を閉めた途端に涙がこぼれてきた。そこから、気持ちを落ち着かせるためにホテルの周りを散歩し、1時間後に部屋に戻った。すると、そこには、鬼の形相のりゅうへいがいた。
「どこに行ってたんだよ。お前のために仕事を早く片付けたのに。携帯を部屋においてくから、連絡も取れなかっただろう。本当に使えないヤツだな。このボケが」
その言葉を聞いて、押さえ込んでいたきみえの感情が一気に爆発した。そして、泣きながら大声で叫んだ。
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