「スニーカー転売屋」ホームレスまで誘う巧妙手口 ECでもbotが自動購入、普通の手段で入手困難に

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一人に大量に買われたらさすがにキャンセル扱いにできるけど、その手法も巧妙になっており、例えば購入者のリストを見ると全員名前が違う。でも配送先が、なぜか宅配便の同じ営業所留めになっていたりする。転売屋だと推測できても、証拠がないのでキャンセルしようがない。

タイピングのリズムでbotを割り出そうとしたこともある。人間だと「トントン〝ト〟トン……」というように必ず波があるのだけど、botは「トントントントン……」と一定のリズムでタイピングしてくるから、リズムで判断して弾いていた。すると今度は、その網をすり抜けるために、botを音楽の拍子に乗せて打たせるように組み込んできた。

botが普及するにつれて、プログラムの違うbotが競合するようにもなった。プログラムを実行できるのが遅いbotだと、速いbotに先を越されて購入できないという事態も発生し、終いには、誰が優秀なbotを備えているかの〝bot VS. bot〟の争いになりだした。

こんなことになってしまうと、普通に買おうとするお客さんは到底、太刀打ちできない。それならばと、オンラインショップでも抽選を導入したのだけど、1足に数万件の応募があり、当選確率が数百倍なんてこともザラにある。それも転売屋が複数のアカウントで応募してくるので、普通に買える確率なんて、宝くじに当たるようなものになってしまった。

商品を受け取らずにキャンセルすることも

スニーカー好きの手にきちんと商品が届かないことはもちろん、そのスニーカーが買い占められた後にも問題は起きる。転売屋は、転売価格が思ったように上がらなかった場合、損することを恐れて、商品を受け取らずにキャンセルする。その返品分を後日リストックとして販売しても、一度売り切れなかったスニーカーは人気が落ちて、お客さんがもう手を出さない。そのモデルごと殺しかねない最悪の事態だ。

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スマートフォンが登場して以来、インターネット通販が爆発的に変わった。インターネット通販が盛り上がるほどに転売行為もエスカレートし、クレジットカード決済の不正利用も増えていった。偽造したり、スキミングしたり、どこかでカード情報を盗んだりして他人のカードで決済する。

アトモスでは、とある1カ月分の不正利用が約800万円分に上ったこともある。クレジットカード会社の補償対象外なので、泣き寝入りするしかない。だからオンラインショップのセキュリティーを強化するしかないのだけど、高度なセキュリティーは購入へのハードルを上げてしまう。

ECの重要性が上がれば上がるほど、転売対策、そしてセキュリティーの塩梅は難しい課題になってきている。

本明 秀文 「atmos」創設者

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ほんみょう ひでふみ / Hidefumi Hommyo

「atmos」創設者。元「Foot Locker atmos Japan」最高経営責任者。1968年生まれ。90年代初頭より、米国フィラデルフィアの大学に通いながらスニーカー収集に情熱を注ぐ。商社勤務を経て、1996年に原宿で「CHAPTER」、2000年に「atmos」をオープン。独自のディレクションが国内外で名を轟かせ、ニューヨーク店をはじめ海外13店舗を含む45店舗に拡大。2021年、米国「Foot Locker」が約400億円で買収を発表。スニーカービジネスの表と裏を知り尽くす業界のキーパーソン。

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