原発増設「賛成」するフランス人が増えた根本理由 再生可能エネルギーの効果を疑問視する声も

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加えてEUも、2050年の脱炭素に向けたグリーンな投資を促進するために、持続可能な経済活動を分類する「EUタクソノミー」に原子力と天然ガスを組み込んだ。これによって、新しいブームになっているESG(環境・社会・ガバナンス)投資が進み、原発推進に資金が集めやすくなっている背景もある。

この件では原発ゼロの急先鋒のドイツやオーストリアがグリーン分類に原発を入れることに強く抵抗した一方、フランスは導入の旗振り役だった。

フランスは2000年代に入り、原発を再評価する、通称「原子力ルネサンス」に舵を切った経緯がある。当時は中国、インド、ブラジルなど産業発展目覚ましい新興国の消費電力が急増する中、石炭発電への依存度を減らす意味でも、原子力発電の将来は明るかった。

フランスの世界最大の原子力企業アレバ社(現オラノ社)は、海外の原子力発電需要増大を大きなビジネスチャンスと捉え、政府も本腰を入れ、原子力産業の再評価と復活が注目された。

ところが、2011年3月の福島第1原発事故後の2012年に発足したオランド左派政権が国内の原発削減に舵を切ったことで、足踏み状態が続いた。

主権国家としての独立性を確保

ただ2017年、中道のマクロン氏が大統領に選出され、その方向性が再び変わった。もともとオランド政権で経済相を務めたマクロン氏は、原子力産業の将来性に高い関心を抱いており、昨年11月には原子炉増設の意思を示したのも唐突とは言えない。

フランスは歴史的に世界の雲行きが怪しくなると、必ず主権国家としての独立性確保を強化する方向に向かう傾向がある。原発推進に踏み切った理由の1つは、価格が安く、温暖化ガスの排出量が少ないエネルギー源による電力の安定供給により、経済の安全保障が担保されるということだ。そのため、エネルギー主権という言葉がよく使われる。

コロナ禍の教訓もある。マスクやワクチン取得で苦労し、サプライチェーンの寸断でビジネスが被害を受けた経験から、フランス企業は生産拠点を中国から本国に移す動きが加速している。国の経済の根幹をなすエネルギー調達の自給率を高めることもフランスにとっては自明の理といえる。となると温暖化ガス排出が最小限に抑えられ、すでに70%の電力を賄っている原子力発電を利用するのは当然の結果といえる。

フランスは食料自給率も100%を超え、エネルギー自給率でも他国に頼らない安全保障への意識が高く、政府が8月末に明らかにした電力会社フランス電力(EDF)の秋以降の再国営化に反対する意見は少ない。脱炭素とウクライナ危機への対処において原発推進の「原子力ルネサンス」をフランスでは政府も国民も時代の流れと見ているようだ。

フランスの出した結論は、昨年、イギリス・グラスゴーで確認された2050年までに産業革命前と比較し気温上昇を摂氏1.5度に抑え、カーボンニュートラル(脱炭素化)を完全達成するのは不可能だが、少なくとも原子力発電と再生エネルギーの組み合わせのエネルギーミックスが目標達成に近づく最良の選択としたことだ。その意味で国の経済再生にもつながる原子力ルネサンスは支持されているといえる。

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