アメリカ株の調整が思ったより長引きそうな理由 株式市場の下落への備えはまだ十分ではない

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すでにアメリカ経済は緩やかながらも減速しており、住宅市場では利上げによって大幅な調整が起きている。景気減速が続く中で、労働市場の過熱状態が和らぐ兆しがみられており、これが賃金抑制をもたらす。FRBのインフレ警戒姿勢も和らぐ過程で、2023年央までにはアメリカ株の底入れが期待できるようになるだろう。

さらに悲観的なリスクシナリオの内容とは?

一方、やや慎重になった筆者の見立てよりも、より悲観的なシナリオが想定できる。それは2023年に、4%の利上げによって成長減速が進むいっぽうで、高インフレがまったく和らがないシナリオである。

著名な経済学者であるローレンス・サマーズ教授らは、「働きたい労働者」と「採用したい企業」の双方のニーズを合致させる労働市場の機能が低下している可能性を指摘している。

この場合、景気減速で失業者が増えても、一方で企業からの求人があまり減らず、賃金が高止まりする。このリスクシナリオが顕在化する場合は、経済活動が減速しても、高インフレが続きやすくなるのでFRBによる追加利上げが、2023年以降も続く可能性がでてくる。

筆者自身は、このシナリオの蓋然性は低いとみている。労働市場の需給が緩和すれば、大きく増えた求人もかなり減少する可能性が高いと予想している。ただ、このリスクを、FRB自身が懸念した場合は、2023年もFRBの想定をさらに超えて引き締めが続くことになる。筆者が考えるリスクシナリオの一つであるが、この場合は、アメリカ株の調整がさらに長引くリスクが浮上するだろう。

FRB関係者の発言による金融政策への思惑が、アメリカ株式市場へ与える影響は依然大きいので、これらの発言で株式市場が揺れ動くのはやむを得ない。ただ、金融政策運営の判断材料になる、経済・インフレの状況やそれらに影響する労働市場の動きについて、今後はより目を配る必要がある局面に変わりつつあるようにみえる。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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