「奨学金520万円」65歳大学教授の踏み込んだ提言 「学歴にグラデーションをつけて支援すべきだ」

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そんな彼は今、特任教授である。「特任」という響きだけ聞くと厳かにみえるが、その実態はこんな感じだ。

「特任教授という名称ですが、再雇用のようなものなので、月の手取りは20万円台です。

今いる大学は規模がそこまで大きくないですし、定年を迎えたので正規の教授よりも安いのは当然ですが、それでも額面を見た職員たちから驚かれることもありますよ。でも、現実はそんなもので、多くの大学教授は入試の出前授業や、夏のオープンキャンパスなどの入試関連業務で補っているんです。本を出しても学術書なので売れませんしね。

学生から『僕たちの高い学費を使って、先生は贅沢しているんでしょう?』と意地悪なことを言われたりしますが、今の私は手取り20万円台で、1回の授業換算でも5000円程度なので、反応に困りますね。『君たちの学費の多くは、この大学のキレイな校舎に使われている』とも言えないですし……。

そんな現実があるので、私は奨学金を前提にして大学院に進もうとしている教え子には、将来設計をもう一度考え直すように指導しています。無慈悲に思うかもしれませんが、私だってかわいい教え子が高い学費を払ってでも大学院に行きたいと言ってくれるのはうれしいですよ。でも、ドクター(博士号)持ちが就職するのは日本ではそれだけ難しいことなんです」

違和感を覚える現在の奨学金の仕組み

このように研究者の現実を語る厚木さんだが、一方で、彼は教育者でもある。多くの学生に接するからこそ、奨学金制度にも思うことは多いようだ。

「奨学金は本来、『勉強したくても経済的に大学に進めない若者をサポートし、人材を育てる社会的な仕組み』として機能していたはずです。資源に乏しい日本では、人という資源は大事ですからね。

しかし、今は『特別奨学金』も『研究職の特別貸与返済免除制度』もない。そうすると結局、お金を子どもの教育にかけられる経済的に豊かな家庭からしか、優秀な人材は出てきませんよね。結局『持っている者しか勝てない』と思ってしまうし、そういう空気感も社会に広がってしまう。

だからこそ、現在の奨学金の仕組みについては違和感しかありません。20年かけて完済はしましたが、私の返し終わった奨学金が次の世代に使われずに、単なる利子補給になるのだけは勘弁してほしいです。人を資源と考えた場合、国力の基礎になる人材……。それを日本はどう育てるか? そのために、奨学金制度をどう設計するか? 真面目に見直すべきタイミングが来ていると思います」

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