「イカゲーム」エミー賞に見るアジア作品の可能性 純粋な作品勝負の時代、出遅れ日本にも挽回の道

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しかし、振り返ると、あの映画は純粋に面白かったのだという事実が見過ごされていたように思う。『パラサイト 半地下の家族』は、全世界で2億6200万ドルを売り上げているのだ。そして『イカゲーム』も、決して最初から世界制覇を狙っていたわけでもなく、Netflixもほとんど宣伝らしい宣伝をしなかったのに、面白いというクチコミで、配信されるとすぐにNetflix史上最高のアクセスを稼ぐヒットとなってしまった。

当たり前と言えば当たり前だが、つまり、エンタメにおいて一番のパワーは、面白いものを作ることなのである。そして、一発で終わらせず、作り続けること。『イカゲーム』のおかげもあり、アメリカでも韓国のドラマにはまる人が増え、ちょっとしたブームにもなっている。それがまた作り手に意欲を与えることになり、良い循環になっているように思われる。

日本にはアニメの文化があり、それらはアメリカのボックスオフィスで1位になることもあるなど、健闘している。だが、実写作品では、韓国のような勢いはない。今年のアワードシーズンでは『ドライブ・マイ・カー』がすべての賞を独り占めし、大注目されたが、日本のエンタメ業界自体への期待を感じさせなかったのは、次にまたここから何かが来るという雰囲気がなかったからだろう。

しかし、韓国が見せつけたように、ハリウッドは、そして世界は、今、どんなものでも受け入れる用意ができているのだ。それらの人々をあっと言わせるものを作れば、一気に世界が広がる。この先、どんな国から、どんな作品がやってくるのだろうか。わくわくする時代の訪れを感じる。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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