くら寿司の「100円ずし消滅」値上げに見えた死角 220円⇒165円へ値下げも進みコスト増は吸収可能?

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このように「将来のコスト増を見込んでもそれが十分にカバーできる」「商品力の高さで値上げをしても消費者がついてきてくれる」といった条件を戦略コンサルタントが定義する「よい値上げ」だと考えたら、くら寿司の今回の価格改定には、コンサルタントの立場で眺めるとリスクを感じます。そのリスクとは「早晩、再度の価格改定に追い込まれるリスクがある」という意味です。

たとえば為替レートが予想を超えて150円台に突入したらどうなるのか? ロシアからの敵国認定が長引いてこの冬の漁獲量交渉で厳しい仕打ちをうけることになったどうなるのか? 

そうなったら再値上げが必要になる可能性があります。アップルやテスラの再値上げを私は「よい値上げ」だと言いましたが、高い頻度でリピートする外食の場合は頻繁な値上げは顧客離れのリスクを高めます。

実質的な値上げが進むケースはありうる

私はもっとありうるバッドシナリオとして、ひそかに進めてきた実質的な値上げがより進み、しかもそれが消費者の気づく形で行われることを危惧します。くら寿司の場合、今後もフェアとして250円や300円の商品も展開する予定だと公表していますが、このフェアが定着して実質的に価格ラインナップが115円、165円、250円、300円に広がるケースは起こりうると思います。

くら寿司の場合は都心店価格も導入していて、一般店で110円、220円のメニューが東京山手線圏内などでは125円、250円のような設定になっています。都心店では14%高いのですが、この「都心店認定」のエリアを広げればこれも実質的に再度の値上げと同じことになります。

消費者というものは意外と価格に敏感に行動するものです。この10月の価格改定ではあきんどスシローではなくくら寿司を選ぶ顧客が増加するのではないでしょうか。その一方で、もし近い将来、くら寿司がこの価格改定ではコスト増を吸収できない事態に直面したときに、消費者離れを引き起こすような経営判断ミスが起きるかもしれません。

あくまで経営者が熟考のうえで決めたことではあるのでしょうが、私は今回のくら寿司の価格改定のやり方は、他の経営者にはあまり勧めたくはないと思っています。そしてその私の直感が正しいかどうか、この先のくら寿司の顧客動向や商品内容に注視していきたいと思います。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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